勝ちたい
勝ちたいというのは簡単だ。
勝つために努力をするというのも、まあどちからと言えば簡単な部類だろう。
だが実際に勝てる人間というのは少ない。
それは何故か?
簡単だ――皆、勝ち方にこだわるからだ。
自分の中で譲れないものがあると思い込み、その様式に従って勝つことこそが至高と考え、そして勝てなかった時の言い訳にする。
そもそも根本からして違うのだ。
勝つために必要なものはきれいごとではない。
必要なのは――泥臭さだ。
勝利のために手段を選ばない、意地汚さだ。
実力で勝てないのなら、小技を使って勝てばいい。
地力で勝てないのなら、無理矢理自分の土俵に相手を乗せて戦えばいい。
卑怯者だという誹りも、そこまでして勝ちたいのかという嘲りも受け入れ、貪欲に勝利を掴み取ろうとする姿勢。
勝利の女神はいつだって――死力を尽くした者にだけ微笑む。
「リャンル選手率いるC組が、一気に先頭に躍り出ました!」
リャンル達が考えた作戦はシンプルだった。
彼らは開始同時に妨害を仕掛けることにしたのである。
まずはリャンルが他の選手達の視界を覆うように飛ぶ水を生成し飛ばし。
それにアリラエが土を混ぜることで泥水を作り出す。
そしてゴレラーが自分達が進む進路以外の足下を濡らすことでぬかるみを作り、他の選手達を妨害する。
試合が開始するのと同時に仕掛けるグループは、まだ一組もいなかった。
誰もがまず最初に走り出し、競り合うグループと魔法を使って妨害合戦をするという流れができあがっていたからだ。
けれどリャンルはそんなものには頓着しない。
彼は勝利に貪欲だ。
そして――そうしなければ自分達の実力では勝てないことを、しっかりと理解してもいた。
『三騎駆け』の特設会場は、学校所有の土地を満遍なく使ってできている。
トラックを回るのではなく、校舎の周囲をぐるりと回るように一蹴してから、近くにある雑木林へと潜っていく。
そして木々の根が張り巡らされている自然の中を駆けていくと、ゴールが見えるという構成だった。
校舎の周りを回っていく。
距離が離れすぎてはいけないため、ペースは一番足の遅いゴレラーに合わせていた。
ただゴレラーは慣れた様子で、以前の練習ではすぐにバテていたにもかかわらず、コースを必死な顔をしながら駆けていく。
(俺には言わずに、こっそりと走る練習でもしてたのか……なんでも楽をしたがるこいつがここまでするとは、よっぽど思うところがあったんだろう)
リャンルは苦笑しながら走る。
ゴレラーは玉の汗を滴らせながら、駆ける。
その顔は赤く火照っていて、必死さが見て取れる。
「勝つ――勝つんだっ! 僕達がヘルベルト様の足を引っ張るわけにはいかない!」
「――ふっ、そう……だな」
ゴレラーの頑張りに呼応するように、リャンルもアリラエもペースを上げていく。
散らばった石ころに足を取られぬよう、ペースを落としたりスペースを見つけて足を置きながら進んでいく。
進路を邪魔するように植えられている麦は、後続組が手こずるよう、魔法を使わずに手で掻き分けて進んでいく。
校舎を半分ほど周り切った段階で、既に他の組を大きく突き放すほどにリードは広がっている。
けれどまだまだ安心はできない。
『三騎駆け』は、雑木林に入ってからが本番だからだ。
「お前達――そこまでして勝ちたいのか!」
「ああ……勝ちたいね!」
試合を観戦している学院生達から飛んでくる野次に、アリラエが答える。
彼らは何も、ルールを破っているわけではない。
ただ誰もが倫理的によくないと思いやってはいなかったことを、平気な顔をしてやっているだけなのだ。
開幕と同時に目潰しをしてはいけないなどというルールは、存在しないのだから。
そして一度相手の邪魔をしたら、もう一度してはいけないなどというルールもない。
中では一番体力に劣るゴレラーは走ることに専念し、ラストでの攻防に備えたリャンルは魔力を温存。
残るアリラエが、仕掛けを施していく。
巧妙に、パッと見ただけではわかりづらいようなわずかな段差を作り出したり。
上に土の柵を作ることで発見しづらくなった落とし穴を作ったり。
アリラエは罠を何個も生み出しては、他の選手達が引っかかりやすいであろう最短ルートへと仕掛けていった。
そしてわかりやすい罠のすぐ近くにわかりづらい罠を置くことで、しめしめと思い避けようとした相手を嵌めるための二段構えの罠も作る隙のない構えを見せる。
これほどまでに素早い土魔法の行使ができるのは、幼い頃からやってきた遊びのおかげだった。
明らかに体格のいい黒服や魔法が使える用心棒を相手に逃げるにはコツがいる。
身体能力に勝る相手から逃走する時は、なんとかして相手を罠に嵌めなければならないのだ。
昔からアリラエは、人にいたずらをするのが大好きだった。
子供の頃から周囲の大人を困らせてばかりいた問題児だった。
だが彼が得意な魔法が土属性であることがわかったことで、彼がやっていた趣味は実益を兼ねたものに変わった。
妨害や時間稼ぎというのは、彼がずっとやってきていたいたずらの延長線上にある行為だ。
なのでアリラエの他人を罠にかける力は、他の追随を許さなかった。
土魔法を即座に発動させて相手を足止めしなければヤバいという状況を繰り返すうち、彼の魔法はどんどんと洗練されていったのである。
「――ふふっ」
「どうした、急に笑い出して」
「いや、昔を思い出してさ」
「……ああ、なるほど」
以前はよく、ゴレラーよりも足の遅いヘルベルトが逃げるための時間を、必死になって捻出したものだった。
昔の経験が活きているのをこうして実感し、アリラエは笑っているのだ。
その頃のことを思い出し、リャンルも釣られて笑う。
ゴレラーも笑おうとしたが、走ることに必死なせいでその顔は引きつっていた。
そして勝負は後半戦へ……校舎を抜け、天然と人口の障害物の入り交じった雑木林へと移っていく――。
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