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日陰


 太陽の光は、全ての人達に平等に光を降り注がれている。


 それを自らの明るい未来と重ねる者は、優しく温かい陽光に身を委ねることを臆しないだろう。

 けれど、そうでない者だっている。


 日陰を好む者や明るい光を拒む者は、太陽という灯りを拒む。

 誰しもが、照らされたいわけでも、照らされて明るくなった世界を見たいわけでもないのだ――。



「……」


 貴賓席に、仏頂面をした一人の少年がいた。

 ローゼア・フォン・ウンルー……ヘルベルトの弟にして、ウンルー公爵家を継ぐべく領主教育を受けていた、ウンルー家の次男坊だ。


 彼はつまらなそうな顔をして、ぷくっと頬を膨らませている。

 その年齢相応の表情は拗ねているように見えるが、その端正な顔立ちを歪ませているローゼアの内心は複雑だった。


 ――今、周囲の貴賓席の者達の関心はほとんど二人に向けられていた。

 まるで風魔法で生み出した暴風のように周囲の興味を引き寄せるのは、特待生として魔法学院に入ったマーロンと、ローゼアの兄であるヘルベルトだ。


 ヘルベルトが使ったあの魔法――あれは一般的な四属性魔法ではなかった。

 つまりは系統外魔法――あれは数十年に一度使い手が現れれば珍しいとまで言われるほどに貴重で、そして使い手の替えの利かないモノ。


 マーロンが使ったものも同様だ。


 少なくともどの属性の上級魔法の中にも、あのように光の刃で対象を一刀両断にする魔法などというものは存在しない。


 系統外魔法の使い手は良きにつけ悪しきにつけ、この世界に名を残すと言われている。

 そんな世にも珍しい魔法を使う者が、魔法学院に二人も現れた。

 それが話題の種にならないはずがない。


 距離の開いたところから聞こえてくる声も、少し歩いてトイレへ向かった時に耳に入った声も、皆がヘルベルトのことを口々に話題に挙げていた。


 そのことに、ローゼアの内心は複雑だった。


 なぜ今になってそれを皆に見せるのかなぜ今の今まで隠していたのか。

 それほどの力を持っていながら、系統外魔法の使い手として生を受けておきながら、なぜヘルベルトは道を踏み外したのか。


 そのために自分が払った犠牲は。

 そのために家族が支払わされることになったいくつものツケは。


 いくつもの疑問が、ヘルベルトに対して否定的な疑問が頭に浮かび、それが頬にたまってローゼアの頬はどんどんと膨らんでいた。


 だがその中にわずかに一つだけ。

 やっぱり兄さんはすごいと思っている自分もいた。


 だからローゼアの内心は複雑だ。

 それを上手く外に出力する手段を持たない彼は、またしてもぷくっと頬を膨らませる。


 そんなローゼアを見て、マキシム達は笑うのだった――。





 クラスごとに、生徒全員が座れるだけの座席は用意されている。

 けれどヘルベルトの元取り巻き三人衆はクラスメイト達が集まっている割り当てられたスペースではなく、そこから離れたところにある木陰に座り、もそもそと昼食を頬張っていた。


「皆……ヘルベルト様のことばっかり話してるね」

「マーロンのことを話してるやつの方が多いけど……ヘルベルト様の方が多いよな」


 ゴレラーとアリラエがそう言って嬉しそうな顔をする。

 その胸中は複雑とは言え、二人とも自分達にとっての親分だったヘルベルトが褒められていれば悪い気はしないのだ。


 なのでつまらなそうな顔をしているのは、リャンルただ一人だった。


 ちなみに三人とも、ヘルベルトが用意した昼食は食べてはおらず、口にしているのは各々が持参した携行食だ。

 中でも人一倍食べる大柄なゴレラーは、どこか物足りげな表情を浮かべている。


 リャンルは『覇究祭』が始まってからというもの、ずっと鬱屈とした感情を抱えていた。

 そのはけ口をいったいどこに求めればいいのか。

 彼は未だに、その答えを出せないでいる。


 現状がよくないということは、彼だってわかっている。


 一体感を持って皆が競技に挑んでいる中、自分達だけがその輪から外れている。

 せっかく盛り上がったクラスの空気を壊してしまうのは、あまりにも……カッコ悪い。


 未だにわだかまりが胸の中にあるのは事実。

 けれどせっかくのお祭りの場で、過去の因果に囚われて皆を冷めさせしうことは避けたい。

 それなら――自分達も、競技を一生懸命にやるしかない。


 リャンルはそうやって、自分の心の動きに一応の説明だけつけて、うんと頷く。

 そして自分を見つめるゴレラーとアリラエを見て、


「次の『三騎駆け』……一位を狙うぞ」

「――っ! ああ!」

「でもこれはあいつのためじゃない。魔法学院生として、貴賓達に無様な姿を見せるわけにはいかないからやるんだ」

「ああ、わかってるさ」


 三人は立ち上がり、歩き出す。


「ね、ねぇリャンル」

「なんだよ」

「あの配ってるパン……もらいに行ってもいいかな?」


 ゴレラーのお腹がぐぅと鳴った。

 リャンルから苦笑がこぼれる。


「仕方ない奴だな……もらってこいよ。せっかくタダで良いものが食べられるんだ、俺とアリラエの分も取ってきてくれ」

「うん――うんっ!」


 ゴレラーは急いでC組のスペースへと駆けだしていく。

 その後ろ姿を見るリャンルの顔は、以前よりずっと晴れやかだった――。


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