一方
マーロンが探していた当のネルは、貴賓席にて親と共に食事を摂っていた。
上級貴族としてはむしろ当然のことだ。
自家の料理人を雇って料理を振る舞わせているヘルベルトやイザベラが異常なだけである。
ネルは父であるフェルディナント侯爵とその妻、つまりは自分の両親と共に食事を摂っていた。
本来なら花のような笑みを浮かべるネルの表情は、いつにも増して冷たかった。
エリアは細かく分けられているため、不意に訪問客がやってくることはない。
ネルのその態度の硬直化は、間違いなくヘルベルトがその理由だろう。
(なんなんですか、もうっ! 人の気持ちも考えないで!)
ネルは彼女にしては珍しく、ぷりぷりと怒っていた。
それはもう激烈に怒っていた。
ヘルベルトは以前から公言していた。
もし彼が率いるC組が学年優勝をしたら、その時にネルに改めて告白をすると。
そしてヘルベルトは今日の試合でも、ネルにピッとその指先を向けていた。
もちろん、それが志気を挙げるためのパフォーマンスであることはわかっている。
けれど何もそのために、自分をだしにするような真似をする必要はないのではないか。
そんな公開プロポーズなど、絶対に受けたくはない。
そういうのはもっと、時とタイミングとムードというものをしっかりと大事にした上で……とそこまで考えて、ネルは自分の思考がどこに行き着こうとしていたのかに思い至り赤面する。
(ち、違います、私は、そんなっ、ヘルベルトのことなんてっ!)
ぶんぶんと顔と手を振りながら違う違うと誰も何も言っていないのに否定を続けるネル。
その奇行を見ても、侯爵夫妻は変わらずにこやかだった。
彼らはネルが一見すると冷たそうに見えてネルが優しいことも、彼女が年齢のわりに想像たくましい子であることも知っているのだ。
そしてネルがいったい何について……というか誰について思いを巡らせているのかなど、あの『魔法射撃』を見れば一目瞭然だった。
「我が領の将来は安泰だな、アーニャ」
「そうですね、グランツ」
「ど、どうしてそういう風になるんですか!?」
「どうしてって……なぁ?」
「そんな風に言われても……ねぇ?」
全てを知ったような顔をしている両親を見てから、ネルは反論するのを止めた。
二人が自分をからかおうとしていることなど、火を見るよりも明らかだったからだ。
ネルの思考はすぐにヘルベルトの方に向き直る。
ヘルベルトのことは、以前ほど嫌いではなくなっていた。
それは何も、彼の見た目がかつての面影のある高身長イケメンになったからではない。
見た目は行動の結果変わったものであって、その根元の部分の方が、ネルからすればずっと大切だった。
ネルがヘルベルトのことを改めて認め直したのは、彼が以前の彼に戻ったからだ。
ひたむきで、前を向いて、自信過剰で、そして最後には……言っていたことを実現してしまう、あの頃に。
ネルは時折、ヘルベルトの訓練をのぞき見ることがある。
最近はヘルベルト通となりつつあるネルは、そろそろ彼がロデオ相手にも、そろそろ一本取れそうな頃合いだと思っている。
以前言っていた、ロデオに勝つという目的も、そう遠くないうちに達成できそうだと思っていた。
――そう、ヘルベルトは自分がこうと思ったことを、本当に達成してしまうのだ。
そういう人だから、ネルは彼の側にいたいと思ったのだから。
(であれば、この『覇究祭』で――)
いったいヘルベルトは、そして自分は、どうなるのだろう。
疑問には思うが、不安は感じていなかった。
その心の動きに理由をつけるのはよしておいた。
きっとそれをすれば、すぐに答えが出てしまうから。
女の子からすれば、何事も時と場合と雰囲気が大切なのだ。
空を仰ぐと、雲一つない快晴が広がっている。
二人の未来を指し示すかのように、空に輝く太陽は、明るく輝いていた――。
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