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気に


 『柱割り』で優勝をしたのは、未だ一年生であるマーロンだった。

 これで『魔法射撃』で一位を飾ったヘルベルトに続き続いて、連続して二つの種目のトップに一年生が立ったことになる。

 さすがにこうなってくると、今年の一年生達は何かが違うぞという風に会場の空気も変わってくる。

 そしてその恩恵を最も受けることになったのは、ヘルベルトとマーロンに引っ張られる形になったA組とC組だ。


 今年は自分達こそが学年一位を取ってみせると意気込みばっちりなC組は歯を食いしばって全力を超える力を振り絞り。

 マーロンを初めとするトップ層が多数在籍しており、このリンドナー王国の王女たるイザベラが所属しているA組は、負けるわけにはいかないと本来の実力を発揮できるようになり始めたA組。

 下剋上を狙うダークホースとそれをなんとしてでも阻止しようとする二つの組に釣られ、本来なら消化試合の感があるはずの他クラスの者達のボルテージも上がってくる。


 『魔法射撃』が終わった時点ではヘルベルトの総合一位のおかげもありダントツでトップだったC組も、『柱割り』が終わった頃にはA組にわずかに勝るという状態だった。

 マーロンが一位を取ったことで良い意味で肩の荷が下り、本来の力を発揮できるようになったA組にC組を初めとする他クラスがどこまで張り合うことができるのか。

 親族達がハラハラとしながら観戦する中、第三種目の『早駆け』が始まる――。




「見たかよ、ヘルベルトの魔法! シルフィ先生の動かすフリスビーを一瞬で割っちまうだなんて、俺らの大将はとんでもないぜ」


(気に入らない)


「よし、俺達もヘルベルトに続いて、なんとしてでもA組に勝ち越して――」


(まったくもって気に入らない)


「ヘルベルトには、なんとしてでもネルさんに思いを告げさせてもらわないと。私達も頑張らなくっちゃ!」


(ヘルベルトがとんでもない、ヘルベルトに続く。ヘルベルトのために頑張る……)


 『早駆け』はこの『覇究祭』においてほとんど唯一と言っていい、魔法を使わない競技だ。

 そのためこの競技は簡単に言えば、複数の競技でそれほど活躍が見込まれない者達……あまり能力がパッとしない者達をとりあえず出しておくための、数合わせのような形で使われることが多かった。


 無論、中には『早駆け』こそが最も活躍できる場だとして送り出されている者達もいる。

 将来的に騎士になるために入学をしている、既にゴリゴリに身体を鍛えている未来の騎士候補生達。

 魔法だけではなく肉体的・精神的な成熟を求められる彼らは『早駆け』において圧倒的な力を発揮する。

 更に言えば彼らは大抵の場合ガタイがいいので、身も蓋もない言い方をすればものすごく画面映えする。


 今も列に並び自分の番を待つリャンルの目の前を、暑苦しく周囲に汗を飛び散らせている男達が通っていった。


「――ハッ!」


 リャンルはその様子――必死になって食い下がっているC組のクラスメイト達の様子を見て、鼻で笑う。

 それを見て露骨に顔をしかめる者もいたが、リャンルはそんな者達のことはまったく歯牙にもかけはしなかった。


 そういう視線には慣れている。

 いやむしろ少し前までは、そういう視線だけを感じて日々の生活を送っていた……。


 生活に刺激が足りない。

 リャンルがそう思うようになったのは、やはりヘルベルトが急に改心をしてからだった。


 自分達には何も言わず、勝手に前に前に進んでしまう自分勝手な男。

 以前はそんなところもカッコいいと本気で思っていた。

 けれど自分達を引っ張るのではなくただ置き去りにしたその態度に、リャンルはとうとう愛想を尽かしたのだ。


 それは僻みなのかもしれない。

 自分達と同じく日陰者だったはずのヘルベルトが、皆からちやほやされて、リーダーとして振る舞っていること。

 その輪の中に、ヘルベルトの近くに、自分の姿がないこと。


 気に入らなかった。

 何もかもが鬱陶しくて、遠ざけたくて遠ざけたくてたまらなかった。


「次の選手、前へ!」


 アナウンスに従い、リャンルは前に出る。

 元々細身の彼は、足はまったく速くない。

 短距離走のタイムも、クラスの中で後ろから数えた方が圧倒的に早い。


 パンという火魔法の音を合図にして、競技が始まる。


(馬鹿馬鹿しい……たかが体育祭一つに、何をマジになってるんだか)


 リャンルは本気を出さなかった。

 本気を出したって一番にはなれないことを知っているから。


 必死になって汗を流してもビリになるのに、どうして本気になる必要があるというのだろう。

 全力を出しただけですぐに結果が出せる人間なんて、全体から見ればごくごく一部しかいない、一握りの天才だけだ。


 リャンルは自分が凡才であることを知っていた。

 だから彼は凡才として、近くに居てくれる天才を支えるために生きていこうと決めていた。

 決めていたが……今はもう、どうでもよくなってしまった。


 リャンルはビリになった。

 同じくゴレラーとアリラエもビリだった。


 けれど他のクラスメイト達の奮戦もあり、学年ごとの点数はA組に追い越されはしたものの、その差は大きくは拡がらなかった。


 『早駆け』が終わった段階で、ちょうどお昼になった。

 そして一時間の昼休憩の後に、後半戦が始まる。

 昼に空いた一時間の休息を、いったいどのように使うのか。

 どんな影響をもたらすのか、どんな風に互いに影響され合うのか。

 それぞれの思いはうねり合い、混ざり合いながら、『覇究祭』は進んでいく――。


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