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今日こそ


 第一種目の競技名は『魔法射撃』という。

 これは言葉の意味そのまま、魔法によって射撃を行う種目である。


 狙う的は魔法学院教師達が打ち出す、土魔法によって生み出されたフリスビーだ。

 事前に生成したフリスビーはいくつもか色に塗られている。


 組の色である赤・青・黄を除いた緑や紫などの塗料を付けられたフリスビーは、それぞれ打ち抜かれた際の得点が異なる。

 その色の違いは、フリスビーが動く速度に拠っている。


 例えばふよふよと宙に浮かぶだけの茶色いフリスビーを破壊した場合は一点が、教師陣のうち最も風魔法に精通しているシルフィー先生が全力で動かし続けている超高速の金色フリスビーを打ち抜けば五十点といった具合である(もちろんこの得点は競技内のものであり、全体に加算される得点は総合得点による最終順位に応じて出される仕組みだ)。


 第一種目であり『覇究祭』というものにまずは関心を持たせようという意味合いから、この魔法射撃はエンタメ要素がかなり強めだ。


 少しでも設定された特典について考えを巡らせることができる者であれば、金色のフリスビーを打ち抜きさえすれば他のフリスビーを一つも墜とさずとも優勝できることがわかる。


 そのため最初から金色一本狙いに絞り、他の色のフリスビーには目も暮れない者もいれば。

 壊せない的などハナから狙わず、地道に自分に取れる点数を取りに行く者もいる。


 そんな人の個性ややり方などが出るこの『魔法射撃』は、『一騎打ち』に次ぐ二番目に人気の種目であり、組と学年に加算される得点も『一騎打ち』に続いて二番目に多い。

 ちなみにこの競技で大事な役目を担うシルフィー先生は結構お茶目な人だ。


 時折わざとあと少しで当たるというところまで金色フリスビーを動かさなかったりだとか。

 そもそも誰も寄せ付けないような超高速で動かすことで、他の選手が壊すはずのフリスビーを自ら壊しに行ったりもする。


 この競技の人気は、シルフィー先生のエンターテイメント精神に拠るところもかなり大きいのである。


 ――だからこそヘルベルトは、己の力の使いどころをここに定めた。






 通常、この『覇究祭』では同一選手が出れる種目は二つまでという制限がある。

 そのため全種目で高得点をたたき出せる選手で固めてしまう、という手は使えない。

 この縛りがある故に、基本的にほぼ全ての生徒がどれか一つの競技に参戦することになる。


 ヘルベルトは自分のクラスが勝つために、最も配点の高い『魔法射撃』と『一騎打ち』の二つに出場する。


 魔法射撃は予選と本選の二つに分かれている。

 予選は大勢の生徒達によるわちゃわちゃとした混戦を。

 そして本選に入ってからは一人ずつ、制限時間一分のうちにどれだけスコアを出すことができるかを競う仕組みだ。


 ヘルベルトは予選を無事に突破し、本選に出場していた。

 無論、彼は一位を取るつもりだった。

 だからこそ一番の障害となる友にしてライバルであるあの男を探したのだが……。


(やはりいない、か……)


 見れば本選の顔ぶれの中に、マーロンの姿はなかった。

 もし出場しているのなら、予選で敗退するはずがない。

 つまり彼は、この競技には出ていないのだ。

 最も高得点が狙えるはずの『魔法射撃』に。


 常に競い合ってきたマーロンがいないことに、寂しさを覚えないでもない。

 張り合いがない、という表現が正確かもしれない。


(……まあいい、決着は『一騎打ち』でつければいいからな)


「それではヘルベルト・フォン・ウンルー選手の『魔法射撃』……スタートです!」


 開始のアナウンスと同時、ヘルベルトは動き出す。


「フレイムランス!」


 彼が打ち出すのは、最も得意な魔法である中級火魔法フレイムランス。

 もちろん狙うは一点突破――シルフィ先生が操るあの金のフリスビーだ。


 実はヘルベルトは、『覇究祭』出場にあたってある許可を父から取っていた。

 それは――。


「ディレイ、アクセラレート!」


 ――時空魔法を、この大会で使用することだ。


 ヘルベルトの時空魔法の技術は向上している。

 今では二つの魔法を同時に使うことができるようになってもいるし、以前のように魔力球を作らずとも、時空魔法を発動させることが可能になっていた。


 ヘルベルトは己の魔法にアクセラレートを、そしてフリスビーにディレイをかけた。


 今こそ見せつけるのだ。

 ヘルベルト・フォン・ウンルーこそが有史以来二人目の時空魔法の使い手であることを。

 自分こそが、未来の賢者であることを。


 国の内外に見せる……というのももちろんある。

 だが彼が一番に見据えているのは――。


 ドカッ!


 加速されたフレイムランスと、減速されたフリスビー。

 その追いかけっこはフレイムランスに軍配が上がり、今まで一度も割れたことのなかった金色のフリスビーが砕け、地面に落ちていく。


「「「う……うおおおおおおおおおおっ!!」」」


 湧き上がる観客達、鳴り止まぬ歓声、そして呆けた様子のシルフィ先生。


 ヘルベルトが手を上げる。

 人差し指が指しているのは天だった。

 その姿は敵将を討ち取った騎士のようにさまになっている。


 限界を迎えたかと思っていた歓声が更に大きくなる。

 ピッと、ヘルベルトは腕を下ろす。


 指し示す先には――ヘルベルトのことをジッと見つめている、ネルの姿があった。


(ネル、今日こそ、俺は――)


 『魔法射撃』は金色のフリスビーを墜としたヘルベルトが総合優勝をかっさらった。

 一年生が種目別とはいえ優勝するのは異例のこと。

 このニュースにC組は沸き立ち、実力以上の力を発揮させてゆくのだった――。


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