大言壮語じゃない
「ヘルベルト……」
「ヘルベルトだ」
「……あのヘルベルトが、どうして?」
壇上から見ているヘルベルトには、同級生達の困惑が手に取るように分かった。
皆の反応は様々だが、基本的に彼らが抱いているのは『どうしてヘルベルトが急に前に出てくるのか?』という疑問だった。
ヘルベルトが未来の自分からの手紙を受け取って変わる前、彼はどんな時でも常に自分が一番前に立たなければ我慢ならない、わがままな子供だった。
そして彼が手紙を受け取ってからは、クラスの皆の印象を変えるよりも先にやらなければならないことが大量にあったために、そこらへんのことは後回しにしていた。
だが『覇究祭』でネルに自分のカッコいいところを見せつけると決めた以上、もうそんなことは言っていられない。
今のヘルベルトは、多少の困難があるだけで尻込みするか逃げてしまう昔の彼とは違う。
いくつもの苦難を乗り越えてきた彼には、どんな状況でも前を見るガッツと真っ直ぐさがあった。
「たしかにこのクラスの面子の実力は、一年A組と比べれば劣っているかもしれない。それは純然たる事実だ」
グッと、ヘルベルトの言葉を聞いて何人かが歯を食いしばるのがわかった。
彼の言う通り、A組とC組が大きく水をあけられているのは事実だ。
だが何も、そこまで正直に言わなくてもいいではないか。
何やらここ最近著しくメキメキと力をつけているらしいが、元々はお前だってこちら側だったではないか。
そんな視線がヘルベルトに刺さる。
数自体は控えめだが、たしかにヘルベルトへ視線を向けている者が数名いた。
抵抗がそれほど強くはないのは、かつて豚貴族だとバカにしていた者達だ。
「だが何も、全ての点において劣っているわけではない! ここにいる誰だって、自分が自信を持っている部分があるはずだ!」
ヘルベルトは臆しない。
周囲が自分へ向ける視線が厳しくなっても、自らの主張を曲げる気は毛頭なかった。
「ヘルベルト様」
「そうは言いますがねぇ……」
「さすがに無茶じゃあないでしょうか」
ヘルベルトの自信満々な言葉に、耳を傾ける者が数名現れるようになる。
それはかつてヘルベルトの取り巻きをしていた者達だ。
彼が変わってしまったせいで離れてしまった、取り巻きでもあり、悪友でもあった者達と言っていいかもしれない。
まだ若いというのに背の曲がっているリャンルに、かつてのヘルベルトのように非常に恰幅のよいゴレラー、そしてニヒルな笑みを浮かべるアリラエ。
三人はなんとか貴族を名乗ることを許されているような、受験資格ギリギリの家格の出だった。
かつてはおこぼれに預かろうとヘルベルトの後ろにひっついていた彼ら。
まず対話をもちかけてきたのは彼らだった。
これもまた、ヘルベルトが行う清算の一つ。
今を変えるため、ヘルベルトは過去と、過去に自分がしてきたことと向き合わなければならなかった。
「誰しもが変わろうと思って変われるほど、強くはないんですよ。それにもう『覇究祭』まで一ヶ月もないんです。今から努力をしたところで、A組なんかに勝てるわけ……」
「勝てる!」
「いったい何を根拠に……」
「俺を信じろ! 自分達を信じることができないというのなら、お前達を信じる、このヘルベルト・フォン・ウンルーを信じろ!」
ひどく自信満々で、自分が間違っているなどとはまったく思っていないような傲岸不遜な態度。
それは正しく、皆が今まで見てきたヘルベルトという人間のそれだった。
――だが、今までと違うものが一つある。
今皆を見据えるヘルベルトは、まったく彼らを見下してはいなかったのだ。
その態度はひどく新鮮だった。
ヘルベルトはクラスメイトの一人一人に、ゆっくりと視線を向けていく。
クラスの中が静まりかえり、皆が言葉を失っていた。
この場を支配しているのは、間違いなくヘルベルトだった。
「足が速いやつとかけっこをする必要はない! 魔法が得意なやつと魔法の飛距離を競う必要はない! 足が速いやつとは魔法の飛距離で勝ち、魔法が得意なやつとはかけっこをして勝てばいい!」
そんなことができれば苦労をしない、と誰もが思った。
けれどそれを口に出すことはできなかった。
ヘルベルトの持つカリスマが、彼が全身から発する力強さが、彼ならばと思わせるのだ。
彼ならば本当に、一年C組を引っ張っていってくれるのではないか……と。
「アリスタ、お前は火魔法の才能だけならばA組のやつにも負けないだけの熟練度がある。お前は『柱割り』における要になるだろう。ウルスラ、お前の風魔法の発動速度は俺をも凌いでいる。『三騎駆け』であれば、その発動速度は何よりも心強い武器になる」
ヘルベルトが一人一人を見つめ、指さして名前を呼んでは一言を添えていく。
中には今後こちら側の才能が伸びるからと、訓練の具体的なアドバイスを受ける者もいた。
彼は既に、『覇究祭』における戦い方まで考えてきていたのだ。
それを知るにつれ驚くのは、またしてもクラスメイトの方だ。
ヘルベルトはここにいる全員の名前だけではなく、その得意な属性から他よりも秀でた部分まで、あらゆるものを覚えてきている。
それをするのに必要な努力。
そしてそこまでして頑張ろうとしているヘルベルトのひたむきさ。
皆が彼の言葉にしっかりと耳を傾けようと思うまでに、時間はかからなかった。
「俺はこのクラスであればA組に勝つことも不可能ではないと本気で考えている! 豚貴族だった俺が短期間でここまで変わったのだ! それと比べれば『覇究祭』で学年優勝することの一つや二つ、難しいものではない!」
かつての自分すら例えに出しながら自信満々な口ぶりでスピーチをするヘルベルト。
彼の言葉を疑う者は、既にクラスの中にはいなかった。
クラスメイト達の様子を見て、ヘルベルトは腕を組みながら頷く。
そして指導者に必要なわずかばかりの茶目っ気を利かせながら目を瞑る。
「俺は『覇究祭』でC組を優勝に導く! そしてその暁には――ネルにプロポーズをするとここに誓おう!」
ヘルベルトの突然の宣言に沸くクラスメイト達。
自分達の大将であるヘルベルトの言葉に皆が改めて、優勝を誓ったのだった。
……ちなみにこの声があまりに大きすぎるあまり、A組のとある女の子が筆を取り落として俯いてしまったことは、イザベラ王女以外には気付かれずに済んだのだった――。
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