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マーロンの戦い

【☆★おしらせ★☆】




あとがきにとても大切なお知らせが書いてあります。




最後まで読んでくださると嬉しいです。


 さすがに謁見の間でそのまま戦い始めるわけにも行かずヘルベルト達は練兵場へと向かうことになった。


 一度外に出るのかと思ったが、驚いたことに入ってきた入り口のあたりを右に曲がってすぐのところで、兵士達が訓練を行っている。


 どこからどう見ても宮殿の敷地内で兵達が汗を掻いている状況に、さすがにヘルベルト達は驚いてしまう。


「宮殿の敷地中に練兵場があるんですね」


「元々は有事の際のキャベツ畑だったんですが、そんなものを作っている暇があった兵を強くしろという当時の皇帝陛下であるゴルド一世の鶴の一声で、こんなに近くに練兵場ができあがったんですよ」


 そう言って説明をしながら案内をしてくれるのは、柔和な顔つきをした一人の青年だった。


 彼の名はカーン。

 まだ年若いが、帝国騎士団の副団長を努めている実力者であるらしい。


「それではまずは僕からいかせていただきます」


 事前に通達がなされていたらしく、ヘルベルト達がやってくるとすぐに、兵達が散っていく。

 そして彼らがいなくなったタイミングで絨毯が敷かれ、その上に玉座が置かれ、ゆったりとした足取りでやってきたオーヴァン八世がやってくる。


 一つ一つの所作に威厳があり、有無を言わさぬ迫力がある。

 きっとこれが、彼が皇帝として民衆を統べるやり方なのだろう。


「それではこれより、御前試合を行う! マーロン殿、カーン、前へ!」


 審判を行うのは、四十代後半ほどの男性だ。聞けば彼がカーンが所属している騎士団の騎士団長らしい。

 騎士団長が直々に審判をするほどに気合いが入った一戦、ということだろう。


「負けていられないな」


「……ああ」


 ヘルベルトの言葉に頷くと、マーロンは練兵場の中央へと向かって歩いていく。

 まだ学生時分の自分達に騎士団の副団長を当てる。


 一般常識的に考えれば明らかにやり過ぎな気がするが、これはおそらく既にヘルベルトとマーロンが学生ではなく一端の戦力として考えられていることの裏返しだろう。


 マーロンはそのままカーンと向かい合う。

 たとえ相手が副団長だろうが、負けるつもりは毛頭無い。

 模擬戦なので使うのは木刀だが、魔法の使用は禁じられていない。

 系統外魔法を使って見せろということだろう。


 マーロンは自分達の力を見せる機会が与えられたと、むしろこの機会を好意的に捉えていた。


「お手柔らかに」


「よろしくお願いします」


「それでは試合……開始ッ!」


 試合開始と同時、前に出たのはマーロンだった。

 カーンはどうやらこちらの出方を窺っているらしく、その場で止まったまま動かずにいる。

「――せいっ!!」


 マーロンが放った横薙ぎを、カーンが逆手に持った木刀で受け止める。

 手加減はせずに放ったはずだが、カーンの方は苦も無く受け止めている。


 薙いだ剣を切り上げ、剣を弾かれた勢いを利用して回転斬り。

 だがその全てを、カーンはきちんと受け止めて防御を合わせてみせる。


 彼の身体は攻撃と防御の際にも、まったくブレていなかった。

 きちんと身体が出来上がり、たゆまぬ鍛錬を積んでいるのだろう。


 マーロンの連撃が止まった段階で放たれた一撃が、彼の胴を強かに打ち付ける。


(ぐっ……まるでロデオさんと戦っている時みたいだ!)


 何をしても受け止められる、まるで大樹の丸胴を相手に攻撃を放っているような感覚。


 こちらの攻撃がどうやれば通るのかわからず、あちらからやってくる攻撃は、その全てが油断すればこちらに入りかねない鋭さを持っている。


 防御をするので精一杯で、手が追いつかない。

 何度か攻撃は食らうものの、致命傷となり得る部位のものだけは的確に避けていく。


 幾合ものやりとりが重ねられ、マーロンは何度も打ち据えられる。

 だが一方的に攻撃を当てているカーンの方も、額に汗を掻いていた。


 マーロンが自身が受けるダメージをまったく気にしておらず、攻撃を食らいながらのカウンターを狙っているのが明らかだったからだ。


 剣を打ち合わせた二人が、距離を取って離れる。

 マーロンは既にいくつもの打撲を負っていたが、彼の戦意は未だ衰えていない。


(強い、な……)


 公爵家の筆頭武官であるロデオには及ばぬまでも、二十代も前半な伸びしろのある状態でこの力。

 マーロンは魔法無しでもやれるだろうとばかり考えていた自分の浅慮を笑った。


「ふうぅ~~っ……」


 強くなったつもりだった。

 戦闘経験を積み、魔人との戦いを切り抜け、ヘルベルトと共に切磋琢磨し。


 だがそれでも未だ自分はまだまだ未熟だ。

 悔しいが、まずはそれを認めなければ始まらない。


 マーロンはゆっくりと息を吸い、そして目を開く。

 勝つための手段を選んでいられるほど、自分は偉くも強くもないのだ。


「フィジカルブースト、キーンウェポン、リジェネレイト」


 たとえ御前試合だろうが、全力を出す。

 そう決めた彼の行動は速かった。

 その全身を白い光が包み込み、その動きが目に見えて良くなり始める。


「なっ……っ!?」


 先ほどと同様、攻撃を真っ向から受けようとしていたカーンがその衝撃で後ろに下がらされる。


 キーンウェポンにより武器の切れ味と攻撃力が上昇と、フィジカルブーストによる身体能力の強化。

 系統外魔法である光魔法の力が、二人の間に横たわっていた技量の差を埋めていく。


 自分の技量の未熟さを、上げたスペックで乗り越えるしかない。

 マーロンは自身の持つ力を使うことで、純粋な実力で勝るカーンを相手に善戦し始める。


「おおおおおおっっ!!」


 マーロンの一撃を受けたカーンの身体が横に流れ、なんとかこられた時には既にマーロンの突きが腹部を打ち据える。


 先ほどまでは常に攻勢に立ち続けていたカーンは、完全に守勢に回らざるを得なくなっていた。


 今やマーロンの一撃は剣を合わせるだけで腕がしびれるほどの威力を誇り、その動きは自身の目で追うのがやっとというほどに速い。

 そして先ほどまで与えたはずのダメージは、既に完全に消えている。


「おぉ、あれが光魔法の力か……」


「カーンをああも一方的に……学生といえど侮れませぬな」


 皇帝が、その脇に居る軍務卿が、マーロンのことを評価している。

 だが彼らの言葉は既に彼の耳には入っていなかった。


 マーロンの心中にあるのは、勝利への渇望ただ一つ。


「おおおおおおっっ!!」


 マーロンが放った一撃が、カーンが持っていた木剣を吹き飛ばす。

 そして痺れから小さく震えている腕の間を縫う形で、その首元に剣を突きつけた。


「参りました……降参です」


 カーンが両手を挙げ、そして周囲から歓声が上がる。

 マーロンはふぅ……とゆっくりと息を吐き出してから、カーンと手を握り、そしてオーヴァン八世へ礼をした。


 くるりと振り返ったマーロンは、己の親友の下へ歩いていき、拳を前に出す。

 それにヘルベルトが己の拳を合わせ、ゴッと鈍い音を鳴らした。


「次はお前の番だ、ヘルベルト」


「……ああ、任せておけ」

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