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謁見

あとがきに大切なお知らせがあります!

ぜひ最後までご覧になってください!


「ほう、これが……」


「ええ、ゴーギャン帝国が帝都、ゴッドバルトでございます」


 ヘルベルトは興味津々な様子で、馬車のガラス越しの外の世界を眺める。

 以前父のマキシムに連れられて帝国に来たこと自体はあったが、帝都にやってくるのは初めてだ。


 帝都ゴッドバルトはリンドナー王国の王都スピネルとは、ずいぶんと様子が違っている。 ヘルベルトの視界には、とにかく雑多な街が映っている。


 大量に行き交う馬車、その間を通り抜けるような形で平気で車道に出てくる民達。

 あちこちで警笛が鳴っており、その高い音が馬車の中まで響いてくる。

 こうしてみてみると、スピネルはかなり落ち着いているのだと思う。


「ずいぶんと、そのなんていうか……騒がしいんだな」


「言葉を選んでいただきありがとうございます、マーロンさん」


「あまり選べてない気もするがな」


「うぐ、それは……すまん」


 ぺこりと頭を下げるマーロンに、気にしておりませんわとアリスが笑う。

 どうやら本当に気にしていない様子で、彼女は上機嫌に外へと視線を向ける。


「ヘルベルト様は、帝都を見てどんな風に思われますか?」


「リンドナー王国ももっと頑張らねばな……と思うな」


「あら、そうですか? 風光明媚なスピネルとは、比べるべくもないものと思いますが」


「たしかに住むならスピネルの方がいいだろうが……首都として考えれば、ゴッドバルトの方が素晴らしいだろう」


 ヘルベルトがこの街に入ると同時に感じたのは、熱だった。

 ゴッドバルトはとにかく人の量も交通量も、何もかもが多い。

 都市の拡張も野放図にされているようで、スピネルのように整然とした感じがまったくない。


 だがそれは裏を返せば、それだけ街に活気があるということでもある。

 ヘルベルトには商店の店主も街を行く馬車の御者も、目に映る全員が非常にエネルギッシュに見える。

 ギラギラと目を輝かせている者の数も、スピネルとは比較にならないほど多い。


 市民に活気のある街は強い。

 王国より長い歴史を持つ帝国の強さを、ヘルベルトはここに垣間見た気がした。


 彼が思ったことをそのまま口に出すと、アリスは少し驚いた顔をしてから、ふふっと声を漏らす。


「そう言ってくれて嬉しいですわ。それでは改めて……ようこそ、帝都ゴッドバルトへ。本日は陛下との謁見を予定しておりますので、まずは帝城へ参りましょう」



 ヘルベルトは案内されるがまま、帝都の中央に位置している帝城キルダルトンへと入っていく。

 見れば城は跳ね橋になっており、中に入るためには水堀を超える必要があるようだ。

 魔道具でも使われているのか水が循環しているらしく、さらさらと水が流れる音が聞こえてくる。


 作りはかなり王城と似たところがある。

 恐らくは王城自体が、この帝城を参考にして作られたのだろう。


 中に入り、待つことしばし。

 流石に系統外魔法の使い手と公爵家嫡男、そして侯爵家の令嬢を待たせるわけにはいかないからか、思っていたよりもはるかに早く謁見の許可が下りる。


 ゴーギャン帝国の皇帝に謁見するのは当然ながら初めてだ。

 公爵家に連なる人間として、ヘルベルトが目上の人間に会う機会はかなり少ない。

 そのため彼にしては珍しく少し緊張していたのだが、隣でもっとガチガチになっているマーロンを見れば緊張もすぐに取れた。


 案内された先の、謁見の間で顔を下げれば、玉座に座る一つの影が現れた。


「余がゴーギャン帝国第五十四代目皇帝、オーヴァン八世である。王国からはるばる良く来たな、面を上げよ」


 言われた通りに顔を上げてみれば、そこには頭に冠を着け豪奢なローブに身を包む、威厳ある壮年の男性があった。


 リンドナー王国の国王はどちらかと言えば文治よりのおっとりしたところのあるお方なのだが、目の前に居る帝国皇帝はかなりやるらしく、身のこなしに一切の隙がない。

 帝国においては皇帝自身が前線に出ることも珍しくないと聞いているが、どうやらそれは誇張でもなんでもなく事実らしい。


「ふむ……」


 ヘルベルトとマーロンを見る皇帝の視線には、明らかに値踏みの意図があった。

 いくら系統外魔法の使い手と言われても、これだけ若輩だと信じられないというのも、理屈としてはわかる。納得できるかと言われると、また別の話ではあるが。


「そういえば貴殿らは『一騎打ち』の優勝と準優勝だったと聞く。どうだ、どうせならその腕前を一度見せてはくれまいか?」


「……ええ、もちろん構いません」


 帝国は極端な実力主義の国だ。

 軍隊においても実力が何より重視され、一部の上級貴族を除けば貴族家の人間が平民の部下につくことも珍しくはないという。


 帝国では力がなければ、尊敬を勝ち取ることはできない。

 皇帝が自分達を試そうとしていることが、ヘルベルト達にはよくわかった。


 だが正直彼らからすれば、そちらの方がありがたかった。

 実力を見せれば認められるというのなら、話は早い。

 マーロンと視線を交わし合い、小さく頷く。


 こうして二人は突如として皇帝の前で御前試合をすることになった。


 だが戦いを前にすると二人にスイッチが入り、身体からは緊張が抜け、いつも通りの自然体に戻ることができた。


 そしてそんな二人のことを、皇帝は面白いものを見るような目で見つめるのだった――。


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