第99話
第99話です。
ただただ静かな時間。
学校にいるみんなが授業を受けている中で私達だけ別世界にいるようだ。
切り離された空間。時間の流れも少し違うように感じる。
廊下に響かない程度の音量で小さくBGMをかけながら私は目を閉じた。
「あぁ、泣くな空心配ない。終わりのない夜はないね……か」
流れてきた歌詞を口ずさみながらゆっくりとそれを堪能する。こんな事を普段家でする暇なんてないし、だからこそこの時間の有効的な使い方のようにも思える。
何かに対して感受性を豊かにできるのだ。悪いことではないだろう。
「ふあぁ……」
「碧染くんおはよ」
「ん……おはよ……」
大半の時間を寝て過ごしていた碧染くんは、目を擦りながら重そうに体を起こす。
伏せながら寝ていたせいか前髪に変な癖がついていて少し可笑しい。
「ふふっ……」
「……?どうかした?」
「前髪はねてるよ」
「んぁ、本当だ」
指で直そうと試みてみるもののまたすぐにぴょこんと重力に逆らってはねる。その繰り返しがこれまた可笑しくて何よりも可愛らしい。
男の子相手に可愛いという表現はあまり喜ばれないかもしれないが、こちらとしては母性本能をくすぐられるのだ。決して悪い意味じゃない事は承知して欲しい。
「直してあげようか?」
ブレザーのポケットの中に常備しているクシを取り出してそう言うと、碧染くんは「お願いします」と頭を下げた。
「はーい、じゃあ近く失礼するよ」
すぐ目の前には体をこちらに向けた碧染くんがいる。普段のクラスの席よりも少し近いだけの距離なのだが、それでもこの少しの距離がここまで碧染くんの存在を強調させるとは思わなかった。
近くで見て初めて分かるが、意外にも碧染くんは体付きがしっかりしているらしい。パッと見た感じは線の細そうな印象だが、首の辺りや足の太ももの周辺等を見てみるとわりと筋肉がついているのだ。
と、そんな事をはね続ける髪を直しながら考えつつ、私はチャイムが鳴るまで碧染くんの寝癖と格闘したのだった。
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