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第98話

第98話です。

 適当な椅子に座って早速寝始めている碧染くんを横目に見ながら私は窓を全開にした。外からは明るい日の光とほんのりと香る潮の匂いが入ってくる。

 ホコリっぽく淀んだ空気が外のきれいな空気と入れ替わったためか、心なしかどんよりとした雰囲気が消える。


「さて、何をして過ごそうかな」


 教室を出る前にスマホとイヤホンは持ってきておいたので暇つぶしはできる。しかし、普段はできないサボりをしているのだから、今しか出来ない事をしてみたいとも思うのだ。

 例えばそう。今の碧染くんのように人の目など気にせずに惰眠を貪るとか。


「悩むなぁ」


 ブツブツと独り言をこぼしてみるものの、やはりそれだけでは何も思い浮かばない。

 窓際に背中を預けながら私は何となく外の景色を眺める。

 海風が吹いて私の髪の毛をパタパタと揺らした。

 遠くの空には飛行機雲がスーッと通っていて思わずそれを見つめてしまう。

 どこ行きの飛行機なのかなど検討もつかない。けれどその進行方向には確かに目的地があって、軌跡もあるのだ。

 ちゃんとそこを通ったという軌跡が。他の人からも見える軌跡が。

 私達が進学して大人になって働き始めて、いい人を見つけて結婚して子供を授かって、育て終えて余生を楽しみそして死ぬ。

 私達の生涯の軌跡は一体誰が見つけてくれるのだろう。誰が後に伝えるのだろう。案外あっさりと消えてしまうものなのだろうか。それともしぶとく何代も後の子孫まで語り継がれる?そんな事はその時を生きる人に聞いてみないと分からない。


「何のために……生きるんだろ」


 少しだけセンチメンタルな気持ちになるが、ここにはそんな事を考えに来たわけではない。

 ここには特別な思い出を探しに来たのだ。

 少し悪い高校生活の黒歴史にもなりうるそんな思い出。何年後かにこんな事をしたのだと笑い話になるようなそんな思い出。それを探しに来たのだ。

 ふと、今の時間の授業は何だったのかと思い出す。

 サボり始めるとここまで授業というものはどうでもよくなるのか。それに、授業を受けなくても世界は回るということも改めて感じさせられる。


「小テストの勉強……しなくてよかったなぁ……」


 今執り行われているであろう化学の小テストの事を思いながら私はまた飛行機雲を探した。

 しかし、見つけたそれはもう真っ直ぐな形を描いてはおらず、ぐにゃりと歪み薄れている。

 そうだ。人の人生も結局は薄れ消えていく。残らなくたっていい。誰かの心に残らなくたっていい。この世に存在したことを全ての人に忘れられてもいい。

 ただ、今を精一杯生きよう。

 今を生きる人に覚えていてもらおう。

 それで馬鹿やって自由気ままに生きて、それで人生の幕を引くのだ。

 そう、それでいいのだ。


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