第8話
第8話です。
本格的に音楽をしたいと思ったのはこれが初めてではない。高校に入る前からも、カッコよく歌うバンドを見れば憧れる程度には「あんな風になりたいなぁ」等と呟いていた。
けれども現実はそう甘くない。高校生の将来の事について考え始めるこの季節になり、そんな事を口にしてしまえば親には「無理だ、やめとけ」と言われ担任には「まずは大学を出てからでもいいんじゃない?」とやんわりと否定される。
音楽こそ誰でも始めれるが、それで生きていこうと思えば、それはまた別の話だ。どれだけ少ないヒットの機会を手にするのか。逃すことなくものにできるのか。
かの有名なMr.Childrenはまさしくその典型だ。たとえ売れなくとも頑張っていい曲を書き続け、そして舞い込んできたドラマの主題歌で一気に爆発的なブレイク。
「そんなドラマ、私に見れるのかな」
周囲に誰もいない歩道で独り言を呟きながら私は歩く。
少し重いギターケースを肩で揺らしながら、私は「そうだ!」と思い立って駅と真反対の海岸へ向かい始めた。
この時間帯の海岸には近くの小学校に通う小学生が、「わーわー」と言いながら駆け回って遊んでいた。時折盛大にコケたりもするが、地面は砂なのですぐに笑って立ち上がっている。
近くのコンクリート製の階段に荷物を下ろし腰をかけると、私はギターケースを開いた。中から私の相棒くんを取り出すと、弦を少し弾きながらチューニングをする。
「これでいいかな」
納得のできた音色を聞くと、私は密かに練習し続けていた曲を軽く弾き語り始めた。
私の好きなシンガーソングライターの少し前の曲。私がその人を知るきっかけになった曲だ。この曲はドラマの主題歌に抜擢されていたわけでも、SNSでバズったわけでもない。ふとした時に、ラジオからこの曲が流れてただけなのだ。だけど、初めて聞いた時のあの感動は未だに忘れられない。
頭の中に鮮やかな情景が浮かんできたのだ。止まらない高揚感。全身が一気に熱くなった感覚をよく覚えている。
爪弾くように弦を弾くと、心地のいい音色が波の音と重なりながら辺りに響いた。
「〜〜♪」
◆◇◆◇
ベッドに寝転がると俺はスマホをスピーカー状態にして、通話を始めた。
相手はクラスメイトの利根里さん。理由は分からないがなぜかいきなりLINEで『今暇?』というメッセージが送られてきたのだ。一応俺も『暇だけど』と返信すると、すぐにOKと可愛らしく笑うポメラニアンのスタンプが送られてきた。
『もしもーし?』
「もしもし?あの利根里さん唐突に聞くけど、何でいきなり電話なの?」
『電話したかったから?』
「あー、理由は無い感じなのかな」
『ご名答!』
スマホの向こう側からは『あははっ』と笑う利根里さんの声が聞こえてくる。
「まぁ、理由は無いとしてもだね?会話する内容がない気がするのだよ」
『そうかもね!』
「そんな自信満々に言われても困るっ!」
『てへ♪』
スピーカーの向こうからはコツンという音が聞こえてくる。多分、本当に頭にこぶしをコツンと当てたのだろう。
俺達はそこから少し長いお話を始めたのだ。
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