第87話
第87話です。
「で、その先輩が話したいこととは一体?」
「んーとね、笑わないで欲しいんだけどさ」
「はい」
「恋をするってどういうことだと思う?」
「恋をすること?……考えたことなかった」
後輩くんはやはり予想外だったらしい話題に少し頭を捻り悩み始める。
確かにこういう反応を見せるのも分からないではない。というか、私も同じ質問を、例えば後輩くんにされたとしたら困惑してしまうし、大いに悩むと思う。
「そんなに難しく考えなくてもいいよ。ただ、後輩くんにとってどんな印象を持っている事なのか気になっただけだから」
「俺が恋に対して抱く印象……ですか」
「うん」
「……印象というか認識というか……俺の考え方みたいなところですけど、そうですね。俺にとって恋ってものは多分一種の薬物みたいなものなんだと思います」
「薬物……。それってコカインとか覚せい剤とかと同じ認識でいい?」
「まぁ、そうですね。それらと違う点があるとしたら、体には悪いものじゃないってことなんですけど」
薬物か。斜め上の例え方をされて少し驚きもしたが、同時に後輩くんらしいなとも思えた。
「好きな相手に依存して、依存されて、愛を享受して享受されて。やっぱりそういうのを考えると俺には薬物みたいな印象を持ちます」
「そっかぁ。じゃあ、後輩くんにとって恋は厄介なものってことなのかな?」
試しにそう聞いてみると、意外なことにも後輩くんは首を横に振った。
「いや、厄介なものとは思いませんよ。むしろ少し憧れます」
「へぇ、それは意外だなぁ」
「まぁ、そうかもですね」
少し笑うと後輩くんはまた話し始める。
「俺の両親がすごく仲がいいんです。あの2人の息子が何年も見てきた上でそう思ったのでこれは誰が見ても同じことを言うと思います。そしてその上で俺は何かと俺に構う親に少し嫌悪感を抱くと同時に、どこか尊敬の念も抱いたんです。何年もやってこんなに仲のいい夫婦を続けられるなんてすごいって」
「なるほど」
後輩くんの言うことはよく分かる。私の両親も目に見えた仲の良さはよく分からないが、どこか信頼と信頼で繋がった絆のようなものを感じることがあるのだ。おそらくそんな夫婦はなかなかできない。
「だから、俺もそんなパートナーが欲しいなって思ったりはします」
そう言う後輩くんの瞳は少し潤んでいて、どことなく頬も赤くなっていた。
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