第7話
第7話
カシャリという電子的な音が屋上に響く。その音が鳴ると、俺のスマホには一枚の写真が保存された。
写っているのは目の前のベンチに座っている先輩の姿。先程撮られた仕返しとばかりに俺が撮ったのだ。
しかし、保存された写真を見て俺は顔を歪める。
「何でポーズ決めれてるんですか」
保存されていた写真の中に写る先輩は、こちらにピースサインを向けながら満面の笑みを浮かべていたのだ。あれだけ唐突に撮られながらも、ポーズから笑顔まで付けてくる反射神経に驚きを覚え、そして同時に悔しさも覚えた。
「何かやるせないです」
「何で!?私の写真が欲しかったんじゃなかったの?」
「いや、仕返しと思って撮っただけですから。満足したら消すつもりでしたし」
「お、おぉ……。被写体の目の前で堂々と消す発言ですか」
軽く身を引きながら先輩はそう言う。
「ただ、想像以上に綺麗に撮れちゃったんでこれはダメですね。何の仕返しになりませんし」
「何か傷つくんですけど」
わざとらしく胸を抑えながら、先輩は「うっ……心が痛い……」などと零す。
「そんな微妙に笑った顔で言われても、なんの説得力もないですけど?」
「えぇ〜、そんな事言ったら本当に傷ついちゃうぞ〜?」
「その時は放ったらかしにしておきます」
「むぅ、意地悪だなぁ」
プリプリと怒りながら先輩はトビラのノブに手をかけた。
「しょうがない。今日はここまでにしてやるっ!」
「悪役の捨て台詞」
「へーん!!!後輩くんのばーか!」
本当に捨て台詞みたくそう吐き捨てるように言うと、先輩は扉が完全にしまり切る前に階段を駆け下りた。扉が閉まる直前まで、校舎の中からはパタパタという上履きのゴムが廊下を蹴る音が聞こえてくる。
バンッという大きな音を立てて自然に扉が閉まると、俺はベンチに置いていた荷物を取った。
◆◇◆◇
私はコソコソっと教師に見つからないようにしながら、裏口を利用して学校を出る。
持参してきたギターケースがなかなか重いが、今はそんなことどうでもいい。とにかく早く離れるのだ。なにせ裏口は基本使用禁止。こちらからの方が駅への近道だから使っているだけで、本当はバレたらこっぴどく叱られるレベルなのだ。
実際過去には反省文を書かされている生徒もいたらしいし。
(たかだか裏口利用だけで大袈裟な気もするけど、まぁ、所詮高校なんてそんなものか)
意味の無い校則を設定し、よく分からないルールでは校則には書かずに暗黙の了解として設定しているものもある。例えば食堂の座席に座っていいのは2年からとか。
(これに関してはなぜか先生からも注意されるし。本当に意味が分かんない。去年の初めの方にそれで注意されて嫌だったの覚えてるなぁ。今は2年になったからそんなの無いけど)
1人そう思いながら私はカツカツとローファーを鳴らす。気分は上々。ゲットした後輩くんの拗ねた顔の写真。これを餌に使えば、暇な時にいつでも後輩くんを呼び出せそうだ。
「我ながら悪知恵が働くよなぁと思う、今日この頃です」
誰に言うわけでもなく、ただ、独り言を喋り続ける。傍から見たら多分やばいやつ。いや、やばくないわけがない。私でもそんな人と出くわしたら「この人大丈夫かな?」などと思ってしまうから。
(あれ、ということは私が今の私に会ったら、自分に対して大丈夫かな?って思うってことか。何だかそれは非常に嫌だな)
そう思うと即座に独り言をやめて耳にイヤホンをさした。スマホを操作して音楽を流し始めると、鼻歌を歌う。
(そう言えばこの曲を聞いてる時に、後輩くんと初めて出会ったんだよなぁ)
イヤホンから流れるバンドの曲。軽快なギターにビートを刻むドラム。メロディを支えるベースにキーボード。
様々な音色が私の中を色づけていった。
「私も音楽したいな」
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