第74話
第74話です。
「碧染くんがそんなにクッキー作れるのがすごいって褒めてくれるから、なんだか嬉しくなってきちゃった」
「そりゃよかった」
「えへへ」とはにかむ様に笑う利根里さんを横目に見ながら、俺はもう一つクッキーを口に運ぶ。
口の中にはほんのりとした優しい甘さが広がった。
「そうだ、碧染くんが褒めてくれて気分もいいから、クッキー作ってきてあげるよ!」
「いいの?そんな急に思い立って後悔しない?やっぱりめんどくさいーってなったりしても知らないよ?」
「大丈夫!作るって決めたらあとは楽しいだけだから!」
「楽しいのは好きなので!」と胸を張りながら自信満々に言えるその姿には憧憬の念すら抱いてしまう。
俺は俺自身に自信なんて抱いたことがないし、抱くような要素も無いと思っている。だからこそ、利根里さんや先輩のような自分に自信のある人には憧れる。
「じゃあ頼もうかな」
「がってん承知!」
◆◇◆◇
利根里さんがお昼前に来たので、俺は客人にはもてなさねばと言う小さい頃からの親の教育により、お昼ご飯を作ることにした。
利根里さんは初めはいいと断っていたものの、俺が「クッキーを作ってきてくれるんだから、そのお返しの意味も込めてるの」と言うと渋々了承してくれた。どうやらまだ気が引ける部分はあるらしい。
「私まだ作ってないしあげれてないのにお返しって変なの」
「まぁ、それは言わないという事で」
ダイニングテーブルの椅子に座る利根里さんは肘をつきながらキッチンに立つ俺の方を向いて話しかける。
窓から入る太陽の光が利根里さんの茶髪に綺麗に反射してさながらモデルのようだ。
冷蔵庫を開けながら中身を見る。
簡単なものしか作れないしチャーハン辺りが一番妥当だろうが、個人的には是非ともうちの本格的スパイスカレーを食べてもらいたいとも思う。
作れないわけではないしやってみるか。
母さんのスパイスコレクションがある戸棚を開け、誰でも食べれるような味付けになるものを取り出した。
あとは食材を冷蔵庫から取り出して、普通のカレーと同じように作っていく。
しばらくするとスパイシーな香りがキッチンを満たし始めた。
「お、この匂いはカレーかな?」
「ご名答」
後ろを向きながら俺は利根里さんに応えると、最後の盛りつけにかかる。
お皿にご飯をのせて半分だけカレーで染めれば完成だ。
「お待ちどーう。碧染家特製カレーです」
「おぉー!美味しそー!」
パチパチと手を叩きながら子供のように喜ぶ利根里さんは見ていてこちらも楽しくなる。
「じゃあ冷めないうちに食べようか」
俺がそう提案すると利根里さんもこくりと頷き頷いた。
「「いただきます!」」
スプーンですくい口に運ぶと口の中には食欲のそそるスパイスの香りが広がった。
どうやら成功したみたい。
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