第73話
第73話です。
一つの部屋にクラスメイトがいたら普通は会話が始まるものだが、そんな普通とはかけ離れた無言の時間を過ごすことはや1時間。俺と利根里さんは悟りの境地にいた。
お互いに何となく次に読みたい漫画がわかり始めて、取ってとお願いをするよりも先に手渡されるのだ。
傍から見たら非常に奇妙な光景だが、これでちゃんと回っているので別に文句は言わない。
「目が疲れてきた」
目頭の当たりを指の腹で押さえながら利根里さんはそう呟く。
「休憩する?」
「そうする」
勉強机の上に置いていたお菓子を片手で取ると俺は利根里さんに「いる?」と聞く。
「じゃあ、一つ頂こうかな」
「はい、どうぞ」
「ありがとうね」
顔には微笑みを湛えながら俺から受け取ると、個包装の袋のギザギザの部分に指を添えてビリッと音を立てながら開けた。
「このクッキー美味しいよね」
「だね。昔から好きだけど、今もコンビニとかで見かけたらつい買っちゃう」
「分かる!ついね、手が伸びちゃってるんだよ!」
フンス!という効果音の付きそうな勢いで前のめりになりながら俺に賛同してくれる利根里さん。元々面白い人である事は分かっていたが、こう2人きりの空間で普段と違う話をすると、今まで見えてこなかった部分も見えるようで楽しい。
「利根里さんってお菓子好き?」
「うん、家でよくクッキー焼いたりケーキ作ったりしてるよ」
「へぇ、すごいね」
「いや、別にすごくなんかないよ。レシピ見たら誰でも出来るし、私のは手抜きだし」
ケラケラっと笑いながらそう謙遜するが、事実作ることは出来ているのだ。俺からしたらそれだけで十分すごい。
レシピを見たら誰でも作れるとは簡単に言うが、俺は俺という例外を知っているのでそう簡単には「それな!」と賛同はできないし、やはり俺は利根里さんの事が素直にすごいと思う。
「手抜きでもやっぱり作れるのはすごいよ」
「そうかな」
「そうだよ」
「うーん、なら誇るようにしとこうかな?」
「そうしとくのが一番!なんてね」
「なにそれ〜」
利根里さんはそう言ってまた笑う。
変わらぬ同じ笑顔で。
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