第72話
第72話です。
「いらっしゃいませ、利根里さん」
「えへ、お邪魔します〜」と言いながら入ってくる利根里さんは可愛らしい笑顔を浮かべて、少しドキリとしてしまった。
可愛いというのはどうしてこうも心臓に悪いのだろうか。おかげで寿命が縮んでいそう。
「俺の部屋は二階だから階段登ってすぐのところの部屋に入っててくれない?お菓子とか持ってくるからさ」
「別にいいのに」
「いや、お客さんをもてなさないという選択肢がありますでしょうか?」
「うーん、そう言われるともう何も言えないんだけど」
「でしょ?」
利根里さんは苦笑いを浮かべながら「じゃあ、遠慮なくもてなしてもらいます」と言って二階に上がった。
ふぅ、この程度の会話は普段の学校生活でしているが、完全に2人きりの状態だとさすがに緊張する。
お菓子を木製のボウルにガサガサと入れると俺は足早に二階に上がった。
「お待たせ利根里さん」
「おかえり〜」
こちらを向きながら利根里さんはそう返してくれる。
利根里さんの手にはなぜかアルバムが握られていた。
「アルバム面白い?」
「面白いよ〜?碧染くんが昔はどんな感じの子だったのかって一発で分かるし、実はイメチェンしてたのかもしれないっ!て思いながら探すのも楽しいしね」
「そういうもんなのかな。時々見る分には楽しいけど、利根里さんからしたら知らない出来事の記録なわけだし」
「まぁ、アルバムは自分に関係なくても楽しいものなんだよ」
ふむ、確かに一理はある。あるにはあるが別に今日の目的はアルバムではないし、俺はスっと取り上げることにした。
「あぅっ!まだ見たかったのにぃー」
ジトーっと見られながらも俺は気にすることなく片付けていく。
「はい、忘れないうちに今日貸す予定だった漫画」
「ありがと〜」
「別に今日読んでいって無理して持って帰らなくてもいいし、他の漫画をここで読んで家で読んでもいいしお好きにどうぞ」
「じゃあここで読もうかな〜」
椅子に腰かけながらそう言ってパラパラと一巻のページをめくり始めた。
さて、俺はどうしよう。ここにあるものは全部俺のものだから何が何なのか知ってるわけだし、特段面白い物も面白いことも無いんだよな。
何も考えずにぽふんと反発するベッドに腰かけると、ベッドの軋む音を聞いたのか利根里さんがこちらを向く。そして何も言わずに立ち上がると俺の隣に座った。
「あれ、椅子使ってても良かったのに」
「こっちでいいの」
「?じゃあ、俺が椅子使おうかな」
そう言って先程の利根里さんと逆の行動をしようとすると服の裾がキュッと引っ張られた。
「それはダーメ。碧染くんは私の隣に座らないといけない令の発令ですよ!」
「何それ」
「そこは気にしない事!」
指でピシッと制された後に、利根里さんはまた漫画を読み始めた。
時折髪の毛を耳にかけながら読むその仕草はとても綺麗で、到底漫画を読んでいる人には見えない。どちらかと言うと純文学を読んでいそうだ。
「俺も何か読も」
何も考えずに立ち上がったのはいいが、本当に考えなさすぎてどうすればいいのか分からなくなってきた。
「碧染くんも一緒に読む?」
「え?」
「なんなら膝枕アンド音読をしてもいいけど」
「い、いや、遠慮します……」
唐突な提案に俺は当然たじろぐ。
利根里さんは時々不思議な子になるから油断出来ない。
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