第68話
第68話です。
ツルツルと柔らかく滑らかな麺を啜り食べていく。
辺りには豚骨スープの良い香りと、厨房で仕込みをしているチャーシューの匂いが程よく食欲を湧き立ててきた。
ズズズッという音と、厨房の湯切り。その音だけしか聴こえない空間というのは、実際にその場に行かない限りは違和感を感じるものかと思う。
だが実際はどうだろう。居心地がよすぎてあまり出たくないという現象にまで陥りそうになっているではないか。
あと二、三杯は余裕で食べれる。その確信を胸に抱きながら俺は最後に麺を食べきった。
やっぱ替え玉を頼もう。
「すみません、替え玉一つ」
「あいよ」
昔から知っている顔なじみの店主に丼を渡すと、替え玉の入ったラーメンが帰ってくるのを待った。
「後輩くんって結構食べるんだねぇ」
フーフーっと猫舌なのか、俺よりも麺を冷ましながら先輩はツルリと麺を食べ進めていく。
「ここだけですよ。こんなに食べるの」
「そうなの?」
「はい。昔っから知ってる味だし、何よりも美味しいから止まらないんですよね」
「へー」
「そう言ってこいつは毎回最低三杯は食べてくからな。こちらとしてはありがてぇけど、健康面で大丈夫なのかって思っちまうよ。ほら替え玉一丁」
店主のおじさんはそう言いながら、新しく麺の入った丼を手渡してくれる。
中を覗くと普段は入っていないものがあった。
「あれ、チャーシュー」
「あぁ、それはサービスだ。お前が珍しく彼女なんて連れてくるからな。べっぴんさんだし、そんな子を連れてきた褒美ってとこだよ」
「いや、別に先輩は彼女なんかじゃ……」
「はいはーい!私この子の彼女です!」
「おぉ、やっぱりそうかい。そいじゃ嬢ちゃんこいつの事色々頼んだぞ」
「はーい」
否定しようと思ったら思わぬところからの声に発言ができなかった。というかそのまま話は進むし、先輩もそれでいいのだろうか。
いや、正確には先輩が俺の彼女だと軌道修正したのだが。
はぁっと溜息をつきながら、俺はもう一度どんぶりの中にある新しい麺を食べ始めた。
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