第65話
第65話です。
「あれ、先輩って出口の方向知ってたんですか?」
「え?知らないけど」
「あれ、でも今出口は後ろって言いましたよね」
「……いいや?」
「え?」
先輩の言う事が真実とするならば、一体俺が耳にした声は誰のものだったのだ?あの女性の声は。
「せ、先輩は聞こえませんでした?」
「な、何が」
「出口は後ろって言った声ですよ……」
「い、いや、全然聞こえなかった」
「まじですか……」
出口は後ろ。まるで俺達の、特に声の聞こえた俺の視線を後ろに誘導させようとする声の方にはあまり向きたくない。だが、向かないことには出口に向かえないのだ。
「じ、じゃあ先輩」
「どうしたの?」
「せーので後ろ振り向きません?」
「いいけど、どうして?」
「俺に聞こえた声が正しい事を伝えてくれてるのなら、出口がそこにあるからです」
「なるほど。わ、分かった。せーのだよね?」
「はい。じゃあ行きますよ」
「「せーのっ」」
2人で声を合わせて勢いよく振り向くとそこには……何も無かった。あるのは壁だけ。
「壁?あれ、私達の通ってきた道は?」
「……消えてます」
「え……」
明らかにそこを歩いていたはずなのに、現実には何も無い。
「しょうがないですし、先に進みましょうか」
「ま、まぁしょうがないよね。道が無いんじゃ」
「です」
そう言って振り返るとこちらは先程見たままの道が通っている。その事に少し安堵を抱きつつ歩みを進み始めた。
「あれってギミックか何かなのかな?」
「あれ?」
「ほら、声が片方にだけ聞こえたり道が壁になってたりってやつ」
「どうなんでしょう。不可能では無い気がしますけど」
「後でスタッフの人に聞いてみる?」
「そうしましょうか」
そこからはただ純粋に歩みを進めていくと時折チープなお化けや、本格的なお化けに叫び声を上げつつ何とか外に出ることが出来た。
入ってから出て来るまでにかかった時間は時刻はおよそ5分と短い。
「5分?中に俺達10分以上いなかったか……」
「あ、すみませーん」
ぼそりと呟くようにそう言っていると、先輩は近くを通りかかったお化け屋敷のスタッフの人に声をかけた。
「すみません、お化け屋敷の中に通ってきた道が壁になる所と、女の人の声が聞こえる部分ってありましたか?」
「道が壁と女の人?……いや、そのような箇所は無かったと思いますが」
「……あ、そっ、そうですか!すみません、変な事聞いちゃって」
えへへと愛想笑いを浮かべながらそう言って先輩はこちらにツッタカターと帰ってくる。その顔に浮かべる表情は笑顔ではあるものの、顔面は蒼白と言っても過言ではなかった。
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