第63話
第63話です。
肩を借りると言っても寝たわけではないので、時々「うぅ……」と声を漏らしながら先輩は酔いと戦っていた。
ここまで体調を崩すとは本当に予想していなかったので、申し訳ない気持ちになってくる。ただ申し訳なくなると同時に、この人は140キロのジェットコースターでもこうなってしまうのではないのかと冷静に判断する自分もいた。
40キロの差は確かに大きい。がしかし、それでも100キロをどちらにせよ超えているのだ。おそらくまだマシではあるだろうが、それなりにダウンした先輩を見る羽目になると思う。
「水まだ飲みます?」
「まだ、大丈夫……」
定期的に声をかけつつ、先輩の背中を優しく摩ってあげた。こうするだけでも多少は違うはずだと願いつつ、早期の回復を祈る。
◆◇◆◇
時は30分ほど経った12時半頃。
やっとの事で先輩は酔いからの完全回復を果たした。治った際には少し顔色が優れないままであったものの、水をぐびぐびと飲ませるとつやつやで血色のいい肌に戻るものだから驚きだ。
今は元気に歩きながらお昼ご飯は何にしようかと色々とお店を見て回っている。
「出店で買ってベンチとかで食べるのも醍醐味だけど、レストランで普通にいただくのもありだよね〜」
「ですね。先輩はどっちがいいですか?」
「んー、どうだろう。分からないけどさっきまでダウンしてたからね、ゆっくり座れるレストランの方がいいのかな」
「じゃあそうしましょうか」
そう言いながら先輩の手を引くと、俺は近くにあったレストランに入り空いている4人掛けのテーブルに座った。
平日の昼間という事もあってか、おそらく休日に比べたらまだ空いていたのであろう。割とすんなり座れたのでどこか心の中でホッとした。
もしこれで数十分も待たされてはたまったものではない。
「んー、どれにしよう」
メニューを開きながら穴が開きそうになるくらい先輩はじっと見つめた。
「俺は和風ハンバーグにでもしようかと思いますけど、どうします?」
「んー、難しいね。ハンバーグもいいんだけどパスタ系もあるし、なんならピザもあるからね。迷っちゃう」
「まぁ、気持ちは分かります」
「でしょう?」
実際メニューが豊富すぎるのだ。一遊園地の中にだけしかないレストランのメニュー数とは思えないほどに、メニューが充実しているのだ。
たとえ突然このレストランが全国展開をすると言い出しても、驚かない自信があるまである。そのくらい本当にすごい。
「まぁ、焦らずゆっくり考えて下さい」
「そうさせてもらうよ」
むむむと眉間に皺を寄せながら真剣に考えるその様は見ていて惚れ惚れとする。これがもし曲の歌詞を考えている最中なら尚更。だが現実はレストランのメニューを決めかけているだけなのだけど。
「ひとまずはこれでいいかな」
そう言うと先輩は呼び出しボタンをポチリと押した。店内には電子的な呼び出しを知らせる音が響く。
店の奥の方からは、レストランの制服姿の女性がメニューを記入するためのスマホを手に持ちながらこちらにやってきた。
「メニューを伺います」
◆◇◆◇
「美味しかった〜」
隣を歩く先輩の表情は笑顔そのもの。料理も非常にお気に召したようで、終始「美味しい」とばかり言いながら食べていた。
「良かったですね」
「うん。納得のいくものばかりで本当に良かったよ」
「ですね」
「あ、そうだ。この後どのアトラクションにする?食べたばかりだからあまり激しいのは乗りたくないんだけど」
遠慮がちに先輩はそう言うが、こちらとしても激しいのにはあまり乗りたくはない。たとえ先輩がご飯を食べていなかったとしてももう乗りたくはない。
あまり元気の無い先輩の姿は見たくないのだ。この人は元気に笑って話している時が一番可愛いから。
「じゃあお化け屋敷にしましょう」
この提案に少し顔をしかめる先輩を見て少し笑いながら「楽しそうでしょう?」というと「そうかもしれないけど」という、どこか納得のいっていなさそうな返事がきた。
まぁ、関係ないのだが。
ぜひブックマークと下の☆からポイントの方をお願いしますね!次回は、4日です。