第62話
第62話です。
ピーとジェットコースターのスタートを知らせる音が乗り場に鳴り響く。俺はその音を合図に先輩の頭を撫でることをやめた。
「ふぇ?」
撫でられる事がストップしたのが結構ショックだったのか、先輩は寂しそうにこちらを見つめてくる。その表情に少し胸を撃ち抜かれそうになりながらも、なんとか鉄の心臓で堪えた。
「撫でてくれないの?」
「いや、後で撫でてあげます」
「今はダメなの?」
「今は動いてるんで」
そう言うと先輩は「動いてる?」と言いながら辺りをくるっと首だけで見渡した。そしてその後に顔を少し青くしながらこちらを見る。
「う、動いてる……。私ジェットコースターに乗ってる!?」
「ですね」
「お、降りれたりしないのかなぁ!?」
軽くパニックになっていらっしゃいますが、一言で言えばもう手遅れだ。ジェットコースターはとっくに最高到達点付近にまでに達している。
「諦めてください」
「そんなぁ……」
「という事でまた下で話しましょう」
そう言い残すとあとは絶叫と高速で動く景色を体験しながら、ただひたすらに「早く終われ」と願う時間を過ごした。
✲✲✲
足下がおぼつかない先輩を支えながら、ひとまず休憩の出来そうなベンチを探す。
「あそこ、一旦あそこに座りましょう」
見つけたベンチの方に先輩を誘導しながら座らせると、近くに見える自販機に駆けた。そして目の前に着くと小銭を何枚か投入して水を購入する。
冷たいので多少は酔いの緩和もできるだろう。
「先輩これ飲んでください」
「……ありがと」
ジェットコースターに乗ってみて分かった事だが、俺はどうやらこういった乗り物にはそれなりに耐性があるらしい。もっと酔うかと思っていたのだが、終わってみればそんな事はなくて、感覚としては「あー、なんかスッキリ!」ぐらいなのだ。
そんな俺に対して先輩というと、
「うー……、ジェットコースター嫌い……」
ジェットコースターが嫌いになるくらいに酔っていた。
ちびちびと水を飲み始めたおかげなのか、顔色はまだマシにはなっている。だが、マシになっただけで完全ではないのだが。
これはやはり楽を取るのではなく、無理にでも列から抜けるべきだったな。
そんな後悔を少し胸に抱きながら先輩の頭を撫でた。
撫でられていることに気が付くと、先輩はゆっくりと顔を上げてこちらを見た。
「先輩体調の方は大丈夫……なわけないですね。もう少し休みましょうか」
「うん。休む……」
「はい」
隣に座るとふっと息を吐く。
耐性があったとは言え、ジェットコースターに乗ったのはかなり久しぶりだったのだ。酔うことはなくても疲れはした。
「ちょっと肩借りるね……」
「え?」
前を動く人の流れを眺めていたら、先輩が突如そう言って俺の肩に頭を乗せた。
肩からは先輩の体温が伝わってくる。
「……お好きなだけどうぞ」
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