第61話
第61話です。
「どうしよう、どうしよう……」
瞳をうるうるとさせて、文字通り頭を抱えて先輩唸る。
そこまで嫌なのかと思ったのだが、無理にジェットコースターに乗らせるわけにもいかないし、どうしたものか。
今まで並んで進んだ距離を振り向きながら目測で測る。
「結構進んでるんだよなぁ……」
軽く20分近く並んでいるのだ。それなりに進むし、当然それなりに後ろに人も並んでいる。つまりだ、戻ろうにも少し手間がかかりそうなのだ。
「どうしたものか」
「んにゃー……本当にどうしよう」
ポフンポフンと先輩の頭を撫でやりながら俺はもう一度後方を見た。
「んー、出れない事もないですけど」
「ふにゃにゃ……」
「どうしました?ふにゃふにゃして」
「ふにゃっ……後輩くんのせいでしょうがぁー」
ムッとこちらを見ながら先輩は頭の上に置かれた俺の腕を指差す。撫でられたのがそんなによかったのだろうか?
そう思うと試したくなるものでもう一度撫でてみる。すると先輩はまた頬を緩まして「ふにゃ〜ん」とリラックスモードに移行していった。
憶測に過ぎないが、この状態を維持し続けてたら列から離れることなくジェットコースターに乗れるのではなかろうか。もしそれなら俺が頭を撫でる作業だけで済むし、色々と楽なのだが。
そう思いながら物は試しと、先輩に作戦の内容は一切伝えずに撫で続けた。
「ふにゃんふにゃん〜」
「ふふ〜、にゃんっ!」
「ふんわりふにゃん〜」
一体なんでしょうこの可愛い生き物は。
普段は切れ長の瞳が、今は丸みを帯びて幼さというかあどけなさというか、何だかすごく守ってあげたくなる感じの姿になっている。
ゆるゆるになった頬もたまに指でくすぐるように撫でると先輩は「ふにゃっ」と言いながら身をよじらせた。
先輩を弄ぶ後輩の図が完成してしまったが、大丈夫かこれ。
「ママー、あのお兄ちゃんとお姉ちゃんずっとイチャイチャしてるよー?」
「そうねぇ。ママも昔はパパとあんな感じだったわ〜」
「今は違うの?」
「今はそうね。……夜の方で楽しんでるわ♡」
「ふぇ?」
何だか今ものすごい親子の会話が聞こえてきたが、これに関しては完全にスルーするのがいいだろう。それに先輩は気付いてないようだし。
にしても実の子に夜で楽しんでるって……ダメだ考えたら俺の俺が……。
頭をぶんぶんと横に振ると引き続き先輩を撫でやる。そうしていると次第にジェットコースターの乗り場が見えてきた。あとはあそこに行って座ってしまえばミッションコンプリート。
「ふふ、手ぇ気持ちいいなぁ〜」
「それはよかったです」
「このまま撫で続けられてたいなぁ〜」
「ならあそこに座りましょう」
そう言ってちょうど順番の回ってきたジェットコースターの席を指さすと、先輩は「分かったー」と言ってトタトタと走った。ちょこんと座る隣に俺も腰をかけるとスタッフの人が安全バーを下げる。
「撫でてっ撫でてっ」
「はいはい」
トントンっと叩かれながら撫でることを催促される。
俺としては撫でること自体は別にいいのだが、それよりも何よりも、先輩が悪い男に引っ掛からないかどうかの方が何となく心配になってきた。普通こんなにあっさりとジェットコースターに乗る所まで行かないだろう。
ほんの少しだけため息をつくと、わしゃわしゃっと撫でた。
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