第60話
第60話です。
「わくわく」
「それ、実際に口で言う人いるんですね」
「え、何の事?」
「……いや、何でもないです」
まさか本当にわくわくなどと言う人がいるとは思わないだろう。だから先輩にそう言ったのだが、もっと驚くべきは先輩にその自覚がなかった事だった。
可愛いところを見れたからそれでいいのだけど。
列に並び始めてはや10分。最後尾からじわじわと動きつつはあるものの、そこまで進んだ印象はない。さすが人気のアトラクションの一つところか。
「あ、そう言えばさ」
「はい?」
「今日の私達って制服デートってことでよろしくて?」
こてんと首を傾げながらこちらを向く。
「デートかどうかは分かりませんが、まぁ、それに近しいものではあるでしょうね」
「なるほどー。制服デートなのかぁ」
「いや、デートでは……」
「もうこれデートみたいなものでしょ!」
先輩がぐいんと顔を近づけながら俺にそう主張してくるので、首を縦に振ることしか出来なかった。
「そうそう、それでいいのだよ♪」
満足気に笑いながら先輩はピンッと指を立てた。
「それにね?私達の関係を知らない人からすれば、制服デートをしてる最中の学生にしか見えないのだよ」
「あぁ……それはまぁ、確かに」
この先輩の言い分には確かに納得する。
他人からしたら俺と先輩はただのカップルにしか見えないだろう。別にそれはそれでいい気もするのだが、この2人の間にそう言った関係性はないので、やはり自分を律するためにもデートではないということは自身に念を押しておいた。
「にしても、列進まないね」
「ですね」
「あっちの人気のあるジェットコースターは結構回転早いのに」
「不思議ですね」
この遊園地にある二つのジェットコースターのうち、こちらの方が人気としては低いはずなのに本当に不思議だ。もしかして他のお客さんも早すぎるのは控えたいという考えなのだろうか。なのだとしたら、それは遊園地側としては相当な誤算だと思う。
「ねぇお父さんっ!」
「ん、どうした?」
少し列の前の方では小学生の男の子とその父親が何やら話している。少しその会話に耳を傾けながら、回転の早いジェットコースターの方を眺めていた。
「このジェットコースターってどれくらい早いの?」
「180キロだぞ」
「それってどれくらい?」
「プロの野球選手が投げるたまの速さよりも断然早いな」
「へー、すごいね!」
確かにすごいな。うん。すごいけどとんでもない情報も同時に入ってきた気がする。
ちらりと隣を見てみると先輩はダラダラと汗をかき始めていた。
「あ、あの、先輩?」
「……後輩くん」
ゆっくりとこちらを向くと、先輩は今にも泣き出しそうな目で「間違えちゃった……」と言った。
何だかすごく抱きしめてあげたい気分。
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