第5話
第5話です。
ガタンゴトンと揺れる電車の中、俺はうつらうつらとしながら吊革に捕まっていた。うちの高校が都市と言うよりも田舎の方に近いところに建っているので、朝の通勤ラッシュに巻き込まれることはほとんど無いが、それでも朝の電車というのはどうにも人が多い。
たまに意識を飛ばすとすぐに近くの人とぶつかってしまうし、万年寝不足の身としては出来れば席を譲って欲しいものだ。例えばほら、そこでドンッと2人分くらい席を占領してるおっさんとかね?
「まじであのおっさん席空けろよ……」
ボソリとそうやってストレス発散がてら呟いてみると、なぜかおっさんと目が合った。偶然「あ、どうも」くらいの感じで目が合ったのではない。しっかりとおっさんの方から俺の事を見ていたのだ。
(あれ〜!?もしかして聞こえちゃってかしら!?)
冷や汗を背中にかきながら、俺はただひたすらに早く駅に着けと祈る。
◆◇◆◇
「おっはよー!碧染くん!」
「おはよ、利根里さん」
「うん!よろしい!昨日は早退だったけど、どう?調子は戻った?」
上目遣い気味になりながら、俺はクラスメイトの利根里さんにそう聞かれた。席替えをした時の席が隣だったと言うだけでここまで話しかけてもらえて、体の事も気にかけてくれることに感謝しつつも、少し申し訳なくも思う。
なぜって、だってサボってただけなんだもん。
「おかげさまで体は全回復ですよ」
「おぉ、それは素晴らしい!じゃあ今日はお昼の会話相手がいるってことだ!」
笑いながらそう言ってブイサインを見せてくる利根里さん。これだけ明るい人なわけだから当然クラス人気も高く、俺以外にもお昼を食べる相手が沢山いるわけだが、なぜだか俺がいる時は俺と一緒にお昼を食べようとするのだ。いつも昼休みに入ると隣から「お昼一緒に食べよっ」と言って誘ってくれる。
「そうだね」
「一日ぶりの一緒にお昼。楽しみだなぁ」
可愛らしく笑いながら、少しカールの巻いているボブの髪の毛を触った。
「そんなに期待されるような事ではない気がするんだけど」
「違う違う、私は期待をしてるわけじゃないよ?ただ楽しみにしてるだけ!」
「俺と食べるのって楽しいの?」
そう聞くと「何を言ってるんだいこの子は」という感情を顔全面に浮かび上がらせながら、利根里さんはこちらを向く。
「楽しくないと、楽しみなんて言わないよ」
「まぁ、その通りだけど」
至極当たり前の事を言われながら俺は席に着いた。
頭の中にある事は先輩はちゃんと登校しているのか、という事。昨日の帰り際に「明日はちゃんと登校しようかな?」なんて言っていたから、来ている可能性は十分あるのだけど。だけど、来てなくても全然おかしくないのがあの人なんだよな……。
「ま、いっか」
1人ボソリとそう言うと隣の利根里さんから「何か言った?」と聞かれた。
「何でもないよ」
「そう?」
そう返し終えると一時間目の授業の用意を出した。
◆◇◆◇
時は放課後。
昨日先輩に「"また"明日」と言ったために先輩と会わないといけないので、俺は屋上に来ていた。先輩もちゃんといて、来たところまでは良かったのだが、今は特に会話があるわけではない。
代わりに屋上にはギターの音色が響いている。何の曲なのか、そもそも曲であるのかすら分からないが、俺はベンチに腰掛けたままその音色に耳を傾けた。
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