第56話
第56話です。
始業式が冬の寒さですっかりと冷え切った体育館の中で行われる。この学校はあまり新しくはないので、窓や扉を全て締切っているとはいえ、時折吹いてくる隙間風が少し堪えた。
そう思ってるのは俺だけではないようで、クラスメイトや体育館の両サイドに並ぶ教師陣も少し震えていた。
「ねねっ……」
ちょうど真隣に並ぶ利根里さんがちょんちょんっと俺の肩をつついた。
「どうしたの?」
教師陣にバレないようにコソコソと聞き返すと「何か寒すぎない?」と言われた。
やはり利根里さんも寒かったようだ。
こくりと頷きくと「だよねぇ」と満足そうに笑った。
「カイロいる?二つあるんだけどさ」
シャカシャカと鳴らしながら二つ手に持つとそう聞いてくる。
「あー、じゃあありがたく貰います」
「はい、どーぞ」
右手に温かくなっているカイロを貰うと俺はそれを、すっかりと冷えきった両手で包んだ。
じんわりと温まってくるこの感覚は少し癖になる。
「あったかぁ」
「えへへ、それはよかった」
可愛らしい笑顔に見守られながら俺も微笑み返した。すると、なぜか利根里さんが「んっ!?」と言って顔を赤くする。
「どうしたの?顔赤くして」
「へ、あ、いやぁ?な、何でもないです……」
「あ、そう?」
何でもないようには到底見えないのだが、言及するにはあまりにも時と場合がよくない。そもそも校長が全校生徒の前で喋ってる中でコソコソと喋ってるのだから尚更だ。
先程まで寒いなどと話していたのに、今の利根里さんは両手を扇にしてパタパタと顔を扇ぐ。この矛盾に少し笑いそうになるものの、笑ったらバレてしまうのでそこは何とか抑えた。
「……であるからして、この時期はどの学年にも共通して大切な季節であり……」
聞く限り校長の話はまだまだ続きそうだ。
もう始業式が始まってかれこれ30分以上経っているのだが、いい加減終わらないだろうか。そんな事を思いながら、俺は今にもずり落ちそうな校長のカツラを眺める。
「あ、落ちた」
◆◇◆◇
盛大に生徒の大爆笑をかっさらった校長の話を、いや、正確にはカツラが落ちただけなのだけど、それを終えた後に俺達は教室に戻った。
隣を歩いている利根里さんはまだ笑っている。
「ぷッ……やっぱり面白い……」
少しお腹を抑えながら利根里さんは目尻に涙を浮かべて笑っていた。確かに面白くはあったが、利根里さんはいくらなんでもツボりすぎだと思う。確かに面白かったけども。
「校長先生泣くよ?カツラ落ちたって分かった瞬間に校長先生の顔すごく焦りだしたからね」
「そ、そりゃあね……ぷふっ……でもさ、あれは狙ってないと出来ないよ?」
「まぁ、そうだけど」
思い出されるのはつい先程の出来事。スローモーションでゆっくりと空中を舞うカツラの図だ。話に聞くだけだと訳が分からないが、こうとしか言えないのでそういうものだと分かって欲しい。
「まぁ、つまんない話が笑い話になったんだから、お互いによかったってことで!」
機嫌よくそう言うと今にもスキップをしだしそうな勢いで駆けていく。
思わず苦笑いをしてしまうが、まぁ、面白いものは仕方がない。後で先輩とこの事について話そう。
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