第55話
第55話です。
教室に戻り朝のホームルームを終えると、隣の席に座る利根里さんがトントンっと俺の机を叩いた。
「ねっ、碧染くんはホームルーム前どこに行ってたの?」
「どうして?」
「いや、カバンはあるのに碧染くんの姿が無かったからさ、おはよって言えないなぁって思ってね。それでちょっと気になった感じ」
「あぁ」
利根里さんの言い分に1人納得すると「別に」と言いながら話し始めた。
「そんなたいそうな所には行ってないよ。ちょっとした隠れ家的な、ゆっくりしたい時に過ごす場所に行ってただけ」
「え!何それ面白そうっ!」
目をキラキラと輝かせながら少し身を乗り出してこちらの話に食い付いた。どうやら予想以上に興味が湧いたらしい。
「いや、そんなに面白いものでも……」
「面白いものでしょっ!面白くないわけがないっ!」
強くそう言い切ると利根里さんはさらにこちらに身を大きく寄せた。利根里さんとの距離が1mを切ってくると、かなりいい香りが漂ってくる。シャンプーの匂いなのか、ハンドクリームの匂いなのかは分からないが、ただものすごく男子としては嬉しい状況にいることは間違いない。
「いいなぁ。学校に自分だけの寛げるスペースがあるわけでしょ?授業サボり放題じゃん!」
そこまで言うと何かを思い出したように「あっ」と呟く。そして「ははーん」と言いながらこちらをニヤニヤとした視線で見た。
「もしかして、時々授業に出てないのってそこでサボってるからじゃなーい?」
「……」
「図星かぁ〜」
くすくすと笑いながら利根里さんは人差し指をこちらに向けると「サボりはいけないんだぞ!」と笑いながら説教をする。
確かに利根里さんの言う事は正しい。正しいのだが、先輩からのお誘いとなると行きたくなるのだよ。
「今度サボろうとしてたら私も着いて行くからね!」
「えっ?」
「どうしたの、そんな驚いた顔して」
「い、いや、着いてくるってどういう……」
そこまで言うと利根里さんは俺よりもキョトンとした表情になった。
「そんなの楽しそうだからに決まってるじゃん。私だけ仲間外れは寂しいぞー」
「いや、仲間外れも何も無いし……」
なんならあそこにいるのは俺と先輩だけなのだ。利根里さんの知り合いは1人もいない。もっと言うと俺を含めて人は2人しかいない。そもそも仲間外れという事自体がおかしいのだ。
「はぁ」と大きくため息をつくと俺はじっと利根里さんを見据える。
「着いてくるって言っても、俺がこっそり行った場合はどうするの?」
「その場所に行く?」
「教えてないけどね?」
「教えて〜」
「嫌だねー」
飄々としたやり取りを交わしながら話していると、スピーカーからもうすっかり耳に馴染んでしまったチャイムが鳴り響く。
「あ、始業式始まる」
「移動しないとな」
「むー……場所聞けなかった」
「それはまたの機会にでも」
「言ったからね。約束だよ」
利根里さんは少し頬を膨らませながら小指を差し出してきた。
これは俺も小指を差し出した方がいいのだろうか。
そう考えながら、右手を差し出す。すると利根里さんの小指が俺の指に綺麗に絡んだ。
「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ます。指切った!これで約束は締結されましたとさ!」
「だね」
満足そうに笑う利根里さんの顔は可愛らしくて、思わずその瞳に引き込まれそうになった。
美少女の力はとんでもない。
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