第53話
第53話です。
「さ、アイス食べよっと」
「あ、コーヒーどうぞ」
「ありがとねっ」
コーヒーを一つ手渡すと先輩はお返しとでも言うのか、袋の中にあったアイスを一つくれた。
「いいんですか?」
「いいよ〜。私一人じゃ食べるの大変だし、それに2人で食べるように買ってたわけだしね」
こちらを見ることもせずに、アイスの袋を開けながら先輩はそう言った。初めから2人で食べるつもりだったのは初耳だが、先輩ならこの量くらい全然一人で平らげそうだなと思った事は黙っておくことにしよう。
貰ったアイスは一旦は俺達の座っているベンチの空いているスペースに置き、空いた手でコーヒーの蓋を開いた。中からはほのかに香る苦いような香ばしいような匂いが漂ってきた。
ゴクリと一口飲むと、体の芯の方から意識が覚醒していく。少しボヤけ始めていた視覚がクリアになるとこんなにも景色は変わるものなのかと感心しながら、俺はもう一口飲む。
「ふぅ……美味し」
「アイスも冷たいけど美味しいよ」
パクパクとアイスを食べながら先輩は俺に感想を伝えてきた。プルプルと震えているのはおそらくアイスを食べて体が冷えたためだろう。それならば初めからアイスを食べるなという話なのだが、そう言う訳にもいかないので黙ることにする。
「風邪引かない程度にしてくださいよ」
「分かってますよ〜」
手をひらりひらりと上げながら先輩は「私は無理しないタイプなので」と言うとまた一口冷たいアイスを食べた。
傍から見たらただただ寒そうにしてる人が我慢してアイスを食べている景色にしか見えないのだが、まぁ、先輩がそれでいいのならそれでいい。
時折会話をしながらアイスを食べたりコーヒーを飲んだりしていると、時刻は遂に深夜の1時を超えた。明るさこそ変わらないが、確実に道を歩く人の数は減ってきている。
「もうそろそろ帰る?」
「そうしましょうか」
やはり先輩も女の子。いくら新年明けてすぐの初詣帰りと言っても、あまり深夜に歩き回すのは違うだろう。
「近くまで送りましょうか?」
立ち上がりながら下心はできるだけ含まずにそう提案すると、先輩は嬉しそうに「お願いするね!」と応えた。この笑顔を見ると守ってあげたくなる。
「お任せ下さい」
由緒正しい家に使える執事のように綺麗な所作で礼をすると、俺は先輩に手を差し出した。
「それでは行きましょう」
「ありがとっ」
空気を読んでくれてなのか、先輩も俺の手を取りながらスタッと立ち上がる。
2人は白い息を吐くと「帰りましょうか」と2人同時に呟いて笑い合う。
「ふふっ、じゃあ行こっか」
「ですね」
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