第52話
第52話です。
「大切な人……ですか」
「そ、大切な人」
小さく頷くと先輩はニヘッと笑う。
その笑顔の真意を図りかねながら、俺は「そうかぁ」と呟いた。
大切な人がいるのなら、彼氏という存在よりもその人が彼氏である想像を先輩ならするだろう。いや、その大切な人が男なのかは定かではないのだか。おそらく男だ。おそらく。
「男の子だよ?」
「心読むのやめて……」
サラッと発動するテレパシーに溜息をつきながら、再度歩き始めた。初詣をするという名目で今は外に出れているが、本当ならもう家で寝ていないとおかしい時間帯なのだ。早めにアイス等を食べて先輩を家に返さないといけない。
「さ、行きますよ」
「おー!」
元気よく拳を突き上げると先輩は小さくスキップをするように俺の前を進む。アスファルトを蹴るスニーカーの音が心地いい。
しばらく歩くと風を遮れて、かつ座ることの出来る公園を見つけた。ここからは下に見える神社がいい感じに映えている。活気もあってなんだか夜ではないみたいだ。
「みんな楽しそうだね」
「先輩も楽しそうじゃないですか」
「そりゃあね。楽しくなかったらこんなに笑顔じゃないよ〜」
両手の人差し指を頬にツンと当てながら先輩は「ほらね?笑顔でしょ?」と笑った。
確かに楽しくもないのに笑える人はなかなかいない。いるにはいるのだろうが、それは相当訓練したか、そういう表情をせざるを得ない状況に置かれ続けた人の結果だと思う。
反対に先輩はそんな生活をしていたとは思えない。明るく、自由にのびのびと育った感じが普段の空気感から感じ取られるのだから、おそらく間違いではないだろう。
「ほら、後輩くんも顔強ばってるよ。すまーいる」
「いや、強ばってるのは楽しくないからじゃなくて、寒いからなんですけど」
「およ、それは失敬」
ぺこりと頭を下げると先輩はこちらをちらりと見据えた。そしてその後に「えいっ」と言って俺の頬に何か温かい物を当てがう。
「何ですかこれ」
「カイロだよ。ポケットに二つ入れてたからね、多分いい感じに温かいんじゃないの?」
「ですね。ポカポカです」
カイロを支えている先輩の手をさらに上から重ねるようにすると、先輩は「んっ!?」と言って少し焦り始める。
「どうしました?」
「え……い、いや。自然に手が触れ合ってるなぁと……思いまして?」
「あ、あぁ。すみません、嫌でしたか?」
そう聞くとブンブンと横に首を振りながら「いやいや、嫌とかじゃなくてね!?驚いただけだから!!」と強く念を押してくる。
「は、はぁ。ならいいんですけど」
「うん!ちょっとドキドキしちゃっただけだからね!気にしないで!」
少し気になる事をポロッと零したような気もしたが、今は気にしていられない。カイロを一つだけ借りると手を温める。
先輩の体温でさらに温められたカイロはポカポカと落ち着く温度。その温度を指で感じながら俺は少しだけドキドキとした。
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