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第4話

第4話です。

 ザザーンと波が岸に打ち寄せては帰る音が辺りに響く。空を見ればトンビが数引き群れながら飛んでいた。


「じゃあ後輩くん。私はすぐそこのコンビニでお弁当を買ってくるから、適当な所にでも座って待っておいてくれたまえ!」

「分かりました」


 先輩の姿を一瞥してこくりと頷きながらそう言うと、適当に座れそうな所を探す。

 一応砂浜以外にもウッドデッキのテラスのような作りになっている場所があるし、ベンチもいくつかあるのでお昼ご飯を食べる場所自体は困らないのだが、なにせどの程度の距離感で先輩と接したらいいのか未だに分からない。

 ひとまず近くにあったベンチに、荷物を下ろしてから腰掛ける。そして、カバンのファスナーを開けて弁当を取り出した。

 今日のおかずはきんぴらごぼうらしい。


(やったね)


 1人心の中でガッツポーズをしながら、「少しくらいはいいか」と思って先輩が来る前に一口食べた。口の中には程よい辛味と、ごぼうとごまのの香りが広がる。


「ん〜美味(びみ)


 お腹が大して減っていない時に、一度食べたら止まらなくなる、という経験は無いだろうか。もちろんその経験は俺にもある。そしてそれはいつも唐突に来るわけで、


「あ、止まらん」


 気づけばパクパクと次々に箸を使って、口にきんぴらごぼうを運んでいた。そしてきんぴらごぼうが減るのと比例して白米も減っていく。


「あー!後輩くん先に食べてるじゃん!!」


 いつの間にかお弁当を買い終えたようで、先輩は気づかぬうちに俺の後ろに腕を組んで立っていた。


「あ、すみません」

「もうっ、私後輩くんと食べるの結構楽しみにしてたんだけど?」


 そう言いながら「よいしょっ」と言って俺の隣に先輩は座る。

 ガサガサとコンビニの名前がプリントされたビニール袋を漁りながら、先輩はお昼ご飯を出した。

 お弁当を買うとは聞いていたが、まさかサンドイッチにおにぎりを二つもプラスで出てきて俺は思わず「えっ!?」と言って驚いてしまう。


「多くないですか?」

「そう?この時期の女の子なんて割とこんなもんだよ?」

「へ、へぇー………」


(クラスの女子がそんなに食べてるところ、見た事ないんだけど………)


 先輩の食欲に少し驚きながら、俺も残りのおかずをどんどん片付けていく。

 ちなみに、きんぴらごぼうは早々に俺の胃の中に収納した。



◆◇◆◇



「ふぅ、美味しかったぁ」


 お腹を擦りながら先輩は満足気にそう言うと、ググッと伸びをして立ち上がった。


「さて、お昼も堪能したしどうしよっか?」

「いや、さすがに帰りますよ」

「えぇ〜?本当にいいのぉ?折角遊べる時間が増えたのに!」

「いや、だから俺は先輩と違って早退してる身なんですよ」

「私は学校をそもそもサボってるよ?」


(それは知らんよ)


 「はぁ」と一つ溜息を着くと荷物を背負う。


「とにかく、先輩が何と言おうと今日は帰ります」

「私暇になっちゃうよ?」

「先輩も帰ってください」


 そうとだけ言うと俺は歩き出した。何となくだが、このまま話し続けていると、ズルズルと先輩の遊びに付き合わされそうな気がしてならない。

 だから、今日はここでスパッと終わらせておく。


「そういう事でさようなら」

「えー。じゃあ、せめて途中まで一緒に帰ろーよ」

「それくらいは、まぁ、いいですけど」

「やったね」


 ニヒッと笑いながら先輩は俺にピースサインを向けてくる。そんなに嬉しいのか、それとも暇つぶしが続行して助かったためにそんな笑顔が浮かんでいるのかは分からないが、ただ確かな事はやたらと綺麗な笑顔だったという事だ。


「よーし、じゃあ駅に向かお!」


 そう言って先輩はスタタッと歩き始める。俺は少し遅れながらも歩幅の差を利用して何とか追いついた。


「後輩くんは明日も屋上に来るかい?」

「知りませんよ」

「君の事なんだから分かるでしょ?」

「じゃあ気分次第で」

「気分次第かぁ」


 「どうしよっかなぁ」と先輩は言いながら腕を組んで悩んでいる。何を悩んでいるのかはよく分からないが、それなりに真剣であることは、表情からして間違いない。


「学校明日はちゃんと行くかぁ」

「それは当たり前です」


 そうツッコミを入れると「だって、学校めんどくさいんだもん」と悪びれもされずに言われる。


(この人どうやって進級したんだよ)


 先輩に対して呆れる事は尽きない。「ふっ」と1人で笑うと、見えてきた駅に向かって少し小走りで向かった。


「じゃあ、先輩また明日です」

「そうだね。"また"明日ね?」

「あ、」

「言質取ったから来ないとダメだよー?」


 内心でやってしまったと思いながら俺はぺこりと会釈し、改札を抜けた。


 家の近くの最寄り駅までは数駅で、むしろ最寄り駅に着いてからが長い。だから、家に帰るための英気を養うべく、乗った電車では可能な限りギリギリまで睡眠を取った。


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