第42話
第42話です。
なんとか母親を追い出して1人の自由を手に入れると、ろくに服も着替えずに布団の中にもう一度潜り込んだ。
硬い夜行バスのシートで寝ていたせいで数時間の睡眠は非常に質が悪く、一番良かったのは先輩の膝枕だった。だが、いくら先輩の膝枕といえども疲れを全部消してくれるわけではない。だから、柔らかい使い慣れたベッドと布団に包まれると俺は一気に夢の世界へと落ちていった。
ふわふわと重力がないような無の空間。手を見てみてもそこにあるはずの手は透明で、自分がどこにいるのか分からない。なにより本当にそこにいるのかさえ分からない。
(あー、あー)
口を開かなくても辺りに俺の声は響く。
当たり前か。夢の中なのだから。
見えない空間はかすかに動いているような気がする。大きく自身を中心としてぐるぐると回っているような感覚。かと思えばぐるぐると回っていた世界は急に俺を置いて上に急上昇しだした。いや、正確には俺が急降下したのだ。
「痛っ……」
どうやら寝返りを打った際にベッドから転げ落ちたらしい。おかげで肩を強打した。
さすりさすりと撫でながら壁掛けの時計を見てみる。時刻は既に10時。帰宅してからかなり時間が経っていた。
「起きるか……」
重い体を起こすと立ち上がりそして歩き出す。ひとまずは風呂に入ろう。それでその後は朝食兼昼飯だ。あとは少しだけ冬休みの課題をしたらまた寝よう。
ひとしきり頭の中で予定を立て終えると俺は着替えを持って脱衣所へと向かった。冬の廊下の冷たさが靴下越しにも伝わってくる。
(あ、先輩の事を考えるってのを予定に入れ忘れてた……)
聞く人が聞けばヤバいやつと思われかねない予定を入れて、もう一度この後のスケジュールを脳内で組みな直す。
早く寝よう。今日はそれを目標に頑張ろう。
心にそう決めると俺は風呂に入った。
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