第3話
第3話です。
自分でも少し驚いた。何気なく別れ際の最後に発した言葉。「じゃあ、また」という再会を約束するような言葉。
「なんでまた会える前提だったんだろ」
パタパタとスニーカーを鳴らしながら階段を降りると、保健室に直行する。そして中に入った後に早退届だけ貰うと、簡単な記述だけして教室に戻った。
早退届を担任に渡した後に荷物を持って帰る準備をしていると、クラスメイトの女子が話しかけてくる。
「あれ?帰るの?」
「帰るよ。少し体調が悪いからな」
「そっか〜。じゃ、気をつけて帰るんだよ碧染くん!」
「ん、じゃあな」
クラスメイトの利根里さんに軽く手を振りながら、俺は教室を出た。廊下には次の授業のために移動する生徒や、他クラスの友人と談笑する生徒。先生に質問している生徒などがいて騒がしい。
こんなに人がいる中、屋上に繋がる階段を利用すれば目立って仕方がないので、ひとまず人が滅多に来ない空き教室に篭もることにした。
ガラリとドアを開けると、教室の中のさらに最も目立ちにくい隅に行く。
少し埃の被った机に椅子。フッと息を吹きかければ、埃は空中を舞って器官に入り込んできた。
「ケホッ……、何してんだろ」
自分で自分の行動がよく分からなくなりながら、ひとまず荷物を置いて座った。休み時間はあと5分ほどある。この間に先輩が帰ることはまず出来ないし、授業が始まって行動が自由にできるまでの辛抱だ。
そう思いながらスマホを取り出すと、イヤホンジャックの先端をスマホに差し込み、音楽アプリで曲を流す。
窓から入ってくる光に反射して空を舞う埃が反射している。それだけ見れば、古ぼけた教室の中に少し神秘的な空間が出来上がっていて。だけど、全ての正体を知っているせいか、その景色に感動は覚えなくて。
だから、ひどく、
「つまらないな」
と、そう思った。
◆◇◆◇
さて、後輩くんは行ったみたいだし暇になったわけだけど。にしても今日も後輩くんと会うとは思わなかった。
前回は「お客さん?」とか言ってその場は誤魔化したが、本当は先生が来たんじゃないかって思ったりして怖かった。だけど、後輩くんは驚いた顔をしていたけど、元々の顔立ちが優しいせいかな。全然怖くなくて、だから何とか私のペースに持ち込めた。
「後輩かぁ。えへへ、憧れの先輩ポジションについになれたわけですか〜」
長年の夢だった誰かの先輩になるというものが思わぬ形で叶い、1人ニマニマと頬緩めているとグラウンドから生徒の声が聞こえ始める。
多分次の授業が体育の生徒だろう。「もうしばらくの間体育の授業受けてないなぁ」と思いながら、私はイヤホンをして一時停止をしていた音楽を再生させた。
空は青くて、浮かぶ雲は青い空を泳いだ。鳥は仲良く群れで飛んでいて、私はそんな自由な鳥を眺めながら「いいなぁ」とボソリと呟く。
「何がいいんですか?」
「え、わっ!?」
知らぬ間に荷物を持って来ていた後輩くんが、イヤホン越しにでも聞こえる声でそう聞いてきた。
「こ、後輩くんっ!!先輩を驚かせるとは何事かね!」
心臓をバクバクと鳴らしながら、私は下からこちらを見ている後輩くんにそう言う。
(こんなに先輩をドキドキさせるなんて、いけない後輩くんだ!ドキドキの種類が少し違うけど!)
そんなふざけたことを考えていると、「驚かせたんならすみません」と素直に謝られる。こうもあっさりと謝れると、何だかこちらが悪い気がしてならない。
「分かったならよろしい!」
だから、こうやって明るく言うことで、本気で怒っているわけではないと伝える。
「にしても、後輩くんのその様子を見ると、どうやら本当に早退してきたみたいだねぇ」
「まぁ、そうですね。どこかの悪い先輩さんに、悪知恵を吹き込まれたせいでしょうかね」
「おっと?そのセリフは聞き捨てならないよ?」
そんな他愛もない会話をしながら、私達はこの後どうするかについて話した。
「それで先輩はいつ帰るつもりだったんですか?」
「私は気の向いた時かな?1時間だけで帰る時もあれば、コンビニのお弁当を持ち込んで、5時間くらいいる時もあるしね」
「あ、この人暇人だ」
「ちょっとぉ?」
(後輩くん、私の事を少し舐めてるよね?ね?)
少しムッとしながらも、心優しい先輩の私は心の中で1人許してあげることにした。
(感謝したまえ後輩くん)
「それでどうしますか?」
「よしっ、じゃあひとまず学校から出よっか?」
そう言ってから私はスタッとハシゴを使わずに飛び降りる。着地と同時にカタカタっとローファーの音が響いて少し驚いたが、そこはあまり気にしないことにした。
◆◇◆◇
先輩は鼻歌を歌いながら、アスファルト舗装のされた道を歩く。
傍から見れば、制服姿の男女が本来学校にいるべき時間に外にいるという奇妙な光景に見えるのかもしれないが、一応早退という名目があるのでそこはきっと許されるはず。
「ねぇ後輩くん。海辺の公園に行ってさお昼でも食べないかい?」
「はぁ」
「私いい所知ってるんだよ〜。近くにコンビニもあるし、ね?行こうよ!」
先輩に子供のような無邪気な笑顔を向けられ、こくりと頷かざるをえない状況になってしまった。
「分かりました。でも今日はそこでさよならです」
「えー、何で?」
「いや、一応俺の場合は親に連絡入ってる可能性あるんで」
「むぅ………それはそうかもだけどさ。後輩くんはこんなに健気で可愛い先輩を、暇という名の地獄に突き落とすつもりかい?」
「いや、それに関しては自分で何とかしてくださいよ」
そうとだけ言うと「早く行きましょ」と先輩に案内を促した。唇を尖らせながら先輩は「私に威厳は無いのかね」とブツブツ呟いている。
(威厳も何も知り合って間もないから、そんなものを感じる時間すらないんだけどな)
そう思いながら潮の香りがする方角へと、俺達は歩みを進めた。
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