第38話
第38話です。
「どれにするー?」
前髪をのけて少し前屈みになりながら先輩は俺にそう聞いてきた。
短めのスカートの中身が少し見えそうになるので、俺は先輩の後ろに立って他の人に見えないようにした。
「ねぇ、後輩くん?」
「あ、はいっ。えーと、どれにしましょ」
店舗に並んでいるパソコンは無数に種類があるのでどれを選べばいいのか正直分からない。スペックが高いものを選ぶのが一番いいのだろうが、しかし、スペックがいいと比例して値段も高くなるものだ。高校生にそこまでの財力はない。かといって下手にスペックが低いものを選ぶわけにもいかない。安くはなるがその分カクついたり不具合だって起こしやすくなる。
腕を組みながら「ふむ」と俺はひたすらに悩んだ。先輩はその様子を後ろで手を組みながらじーっと眺めている。
「あの、他のもの見ててもいいですよ?テレビとか」
「ううん。後輩くんの事待ってるよ。別に暇じゃないし、後輩くんの真剣な眼差しも見れることだしね」
「そっすか」
「そっすよ」
そう言ってからまた俺はパソコン選びに熱を入れた。
しばらくの間無言でそれぞれの性能を見ながら選んでいると不意にトントンっと肩を叩かれた。振り返ってみると眼鏡をかけた女性の店員さんが「お困りですか?」と尋ねてくる。
「少し迷ってて、どれがいいのかよく分からないんです。値段の方もスペックの方も考慮しないといけないんで」
「なるほど。そのパソコンは彼女さんと共同で使ったりしますか?」
「え?」
「?そちらの女性は彼女さんでは……」
「私はこの子の先輩さんです!」
「あ、そうですか!すみません、こちらの早とちりで」
なぜか誇らしげに胸を張る先輩とペコペコと頭を下げる店員さんの奇妙な光景を目にしながら、俺は少し頬に熱がこもるのを感じていた。
(先輩と俺ってカップルに見えるのか……)
◆◇◆◇
「よかったねぇ」
微笑みを顔に浮かべながら先輩は俺にそう言った。
俺の手には先程買ったばかりのノートパソコンが入った紙袋が握られている。
「はい、よかったです。先輩もありがとうございました」
「ううん。後輩くんのためだからね。それに私自身はべつになにもしてないしね」
「いや、そんな事は」
「いや、本当に何もしてないよ?見てただけなんだもん」
先輩は「あははっ」と笑いながらそう言った。
確かに見ていただけかもしれないが、先輩がいることで少しいい思いができたということもまた事実なのだ。その事について先輩には言わないが。
「ま、今日もバスに乗って帰るよ〜」
「ですね」
夜行バスの時間まで時間を潰してから俺達は東京に来た時と同じバスに乗り込んだ。
行きの時とは違い先輩はすっかり疲れてしまったのか、目を閉じて寝てしまっている。
「お休みなさいです。先輩」
ポンッと頭を撫でると俺も目を閉じた。
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