第300話
第300話です。
うきうきとした足取りで私は向かいにあるマンションに歩いていった。
人生で初めて出来た彼氏さん。またの名を後輩くん。
今からその彼の家にお邪魔しに行くのだ。向かいの家ということもあって非常に会いやすく、お泊まりにも抵抗がない。実質同棲みたいなものだ。歩いて1分かかるかどうかの距離なので、言ってしまえばお金持ちの大豪邸に一緒に住んでいるのと何ら変わらないわけだ。
ちなみに後輩くんの家には付き合う前から私の私物をちょくちょく持ち込んでいるので、泊まるのも手ぶらで行くことが出来る。歯ブラシもあるし、パジャマだってあるのだ。ちなみにゲームのマイコントローラーも置いてあります。
後輩くんの部屋がじわじわと私色に染まりつつあるので何となく優越感というものに浸りつつも、けれどどこか彼の色もしっかりと残しておいて欲しいと思うので、侵食し過ぎないようには注意したいと思う。
マンションについてからインターホンで彼の部屋番を鳴らすと、すぐに返事が自動ドアの開閉として返ってきた。
私は直ぐに中に入ってきてくださいという事だと理解すると、素直にそれに従って後輩くんの部屋に向かうこととする。
ところでだが、今現在の時刻は夕方の6時。私達が見たい番組は夜の10時からの放送だ。つまり4時間も何も無い時間がある。この時間を無駄にしないために私達は一緒にご飯を作って過ごす予定だが、到底それだけでは4時間を消費しきることは出来ない。
では何をするのか。
そう。一緒に作詞するのです!
と、言いましても、正確には私の作詞の現場に後輩くんが立ち会い、その間後輩くんはYouTubeに上げるChatnoirの動画の編集をするという、お互いがお互いの仕事を監視し合うというだけの時間なわけであります。
到底恋人同士のすることじゃないね、なんて思いながらも、それが結構楽しかったりする。
「来たよー」
部屋の鍵は開いていることを聞いていたので、私は中にそのまま入った。中からは掃除機の音が聞こえてくる。
「あ、こんばんは先輩」
「うん。こんばんは」
お互いに軽く挨拶をしてから、私はベッドに腰かけさせてもらった。
「ご飯は何にします?一応ある程度のものには対応出来るような食材を買っておきましたけど」
尋ねられたので、私は少し逡巡してからはたと思いついた料理名を口にする。
「キムチ鍋にしよ!いい汗かこ!」
「お、いいですね。多分少しだけ材料が足りないので、後で買ってきます」
そう言うと、後輩くんは掃除機をスタンドに立てかけてお財布を手に持った。
「じゃあ少し行ってきます」
と、そう言ったタイミングで私は彼の裾を掴む。
「一緒に行こーよ。私も食べるんだし、一緒に行かない理由の方が無いでしょ?」
「あ、まぁ、それは確かに」
「だから、私も一緒に着いて行きます」
「わかりました。じゃ、じゃあ……」
後輩くんはそう言うと手を差し出してきた。
「手、繋いでいきません?折角だから、こういったことから恋人っぽくなっていきたいって思って」
「ん、わかった。はい、それじゃ行こっ!」
手を引くのは1つ歳上の私。そんな私に振り回される1つ下の後輩くんはどこか嬉しそうで、どこか幸せそうだ。
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