第270話
第270話です。
しばらくしてから呼んでいたタクシーが来てくれる。俺は先輩に肩を貸しながら車内に乗り込むと行き先を伝えた。
乗ってすぐに先輩はこてんと寝てしまい、今では「くかー」と寝息を立てている。
「彼女さんですかな?」
突然運転手のおじさんにそう尋ねられた。
「いえ、ただの先輩です。彼女じゃありません」
「そうかい。いや、随分とそこの彼女がお兄さんに心を許してるように見えてね。てっきり恋人かなんかなのかと思ったよ」
おじさんは笑いながらそう話す。
「確かに、恋人になれたらいいんですけどね」
「お?もしかしてお兄さん、彼女の事好きなのかい?」
「まぁ、一応?憧れの気持ちも大きいですし、それに普通に人としても好きですし」
「そいつはいいな。彼女の要素としてはバッチリだな」
楽しそうに笑いながらおじさんはそう話し続ける。
「そういや、その彼女さん随分と酔っているみたいだけど、飲み会でもあったのかい?」
「飲み会というか、打ち上げがあったんです。今日音楽イベントがあって、先輩はそこに参加するバンドの1人でしたから打ち上げにも参加してたんですよ」
「お兄さんは?」
「俺はただの観客です。先輩からは先輩のバンドのサポート係みたいな役割を貰ってますけど、それでもまぁ、やっぱり観客に違いはないです」
そう、俺はあくまで傍観者で聴衆。そして観客以外の何者でもない。
「ほーん。まぁ、俺はバンドの事とかよく分からんけど、お兄さんが彼女の事を好きだってのは分かったから、ひとまずはそれだけでいいかな」
運転手のおじさんは満足そうにそう言ってハンドルを切った。「あそこであってる?」の声に俺は首を縦に振ってから「はい」と返す。
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