第26話
第26話です。
「ちょっと!早いですって」
息を切らし、肩で呼吸をしながら俺はフードコートにある席に座っている先輩にそう言った。
当の先輩はというと、唇をツンと尖らせながらテーブルに肘をついている。
「何だねナチュラルたらしくん?」
「何で俺がたらしなんですか」
「分からないかなぁ?私は後輩くんのたらし行為のせいで結局バスが出発してからここに着くまでの数時間、たったの一睡もしていないんだけど?」
「えぇ……普通限界が来るでしょ」
「来なかったから起きてるんだよ!」
プンスカという音が聞こえてきそうな怒り方をすると、先輩は横目に俺を見てきた。
何か詫びの品でも持って来いということなのか?
「何がいいですか?」
「ざるそば」
「了解です」
どうやら俺の予想はドンピシャだったらしく、メニューを聞くとすぐに返答があった。さて、なぜフードコートのだいぶ端の方にあるそばにしたのかは分からないが、そこは目を瞑ることにしよう。
先輩に言わせれば俺が悪いみたいだし。
3分程かけて店の前に着くと海老天付きのざるそばを頼んだ。大体10分ほどで完成するようなので俺は近くの席に着きながら待つことにした。先輩にはその事を連絡しておけばしばらく戻らなくても何も言われないだろう。
『10分くらいで出来るみたいなんで、少し待ってて下さい』
そう連絡を入れると、しかめつらのキジ猫が「了解です」と言っているスタンプが送られてきた。
怒っているのか怒っていないのかよく分からない。
にしても、外は寒かった。バスの中とこのフードコートは暖房がちゃんと効いていて暖かいので別にいいのだが、バスまでの道のりが少し億劫だ。
時折やってくる車に気をつけながら向かわないといけないので、全速力で戻れないのだ。どうしても時々止まりながら進まなくてはならない。だけど、それをすると指先が真っ赤になって感覚が無くなるほどに冷えてしまうのだ。
「カイロ持ってくりゃよかったな……あと手袋にマフラーも……何で忘れたんだい過去の自分?」
ボソリと過去の自分に恨み言を言いながら、俺は時間を確認した。
「深夜の3時って普段の俺寝てるじゃんかよ。……当たり前か」
くすりと1人笑いながらスマホを開く。Twitterを開いてスワイプを二、三回するとすぐに画面を消した。この時間帯にもなってくるとさすがに頭が働かない。この時間帯に面白いツイートをする人もあまりいないし、見ていて暇つぶしにもならない。
「暇」
そう言ったのと同じタイミングでお店から渡されていたブザーがピピピと鳴り始めた。
完成したことを知らせるものなので、俺はすぐそこにあるお店に取りに立つ。
◆◇◆◇
「はい先輩ご所望のざるそばですよ。なんと海老天付きです」
「ありがと……」
つんつんしたオーラはまだ残っているものの、目の奥には美味しそうという感情が滲み出てきていた。
この人って時々俺よりもよっぽど子供だよな。いや、常にか?
そんな事を考えながら俺は先輩と同じテーブルの座席に着いた。
「ずるるっ……美味し」
つゆに一度つけてから口に先輩はそばを運ぶとそう言った。薬味も時折混ぜながら先輩は美味しそうに食べる。
「ん」
「何ですかその箸は?」
箸で海老天を掴みながら先輩は俺に箸を向けてきた。
「後輩くんも食べなよ。お腹空くよ」
「いや、でもそれは先輩の海老天なわけで」
「買ったのは後輩くんでしょ」
「まぁ、そうですけど」
「なら、君にも食べる権利がある。ほら、疲れてきたから早く食べちゃって」
先輩に「さっさとしたまえ」と急かされるので俺はパクリと一口かぶりつく。
かぶりついた後に先輩の顔を見ると、先輩は満足気な笑みを浮かべていた。
「それでいいんだよ」
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