第268話
第268話です。
先輩達のいる打ち上げ会場はライブハウスからそう離れたところではなく、行き方としては今日のイベントの時と同じでいい。しかし、行きはまだ最終電車が残っているので向かえるのだが、帰りに関してはおそらく電車が無くなってしまうのだ。一応お金もあるにはあるのでタクシーという手もあるが、何分今回のイベントは多数のライブハウスを使った大型イベント。参加者もそれなりにいる訳で、その人達がタクシーを使っていた場合すぐに捕まらない可能性が高い。
こんなこと今考えたとて仕方がない事なのでとにかく急ぐが、それでもやはり脳内には先輩の返し方をどうするかがチラつく。
電車に乗って少し揺られた後、俺はアスナさんから送られてきた住所に向かった。駅から程なく歩き、イベントのあったライブハウスの前を通り過ぎてさらに10分。その先のお店の前でアスナさんに「ぐへへ〜、かぁわいいねぇ〜」と言いながら抱きついている先輩の姿を見つける。
「酒臭いですよカオリさん……」
「んえ〜?そんな意地悪言わないのぉ〜」
「意地悪じゃなくて事実ですって……」
なかなか対応には苦戦しているらしく、今日のイベントでの疲労も重なってか、アスナさんもお酒とは別ベクトルで倒れて寝てしまいそうになっていた。
ちなみにメグさんは電柱に背を預けながら静かに寝ている。
「アスナさん、来ました」
「あ、京弥」
まるで救いの手を見つけたかのように希望に溢れた瞳で俺の事を見つめてくるアスナさん。どうやら相当きつかったらしい。
「すまないけど、カオリさんの事は京弥に全て頼んでもいいか?私はメグさんを連れて帰るから」
「分かりました。けど、電車もうないですよ」
一応その報告だけするとアスナさんは「あっ……」と声を漏らす。どうやら2人の、主に先輩の対応に追われすぎていてその事が頭から抜けていたらしい。
みるみるうちに希望が絶望に変わっていくアスナさん。なんだか見ていられないなと思いつつ、俺はタクシーの件を話す。
「捕まる可能性はかなり低いですけど、家まで直接行けるしかなり安全かと」
「けど、こっから家までだと結構お金かかるぞ?」
「そうなんですよねぇ……」
俺と先輩達の住むマンションは目の前同士にあるので、なんとなくかかる料金は想像がつく。そしてそれが安くないということも想像が容易い。
「私達も多分3人分のお金を合わせてもそこまで持ち合わせがないし……どうしたものかなぁ」
コンビニも銀行も閉まっている今、お金の確保が出来ずある意味窮地の状態に陥っているわけだ。
「ひとまず、酔い潰れてるカオリさんの事は家に返したい。私とメグさんはどうとでもなるから」
アスナさんはそう言うと先輩の体を俺に預けてバッグの中を探り始める。
預けられて俺の腕の中にいる先輩は「かぁわいいねぇ」とまだアスナさんに抱きついているつもりでそう言った。
「ひとまず持ち合わせの5000円は渡しとく。あとは京弥の方で立て替えてくれるとありがたい。もちろん後日返すから」
「アスナさん達はどうするんですか?」
「私達は適当に安いビジネスホテルでも探すよ。正直今は寝れたらどこでもいいから」
そう言った後にアスナさんは電柱にもたれて寝ているメグさんの肩を優しくさすって「行きますよ」と声を掛けた。
「多分、カオリさんの家の鍵はバッグの中に入ってるから中に入れてやってくれ。それと、結構飲んでたから寝かす前に水を飲ませるのと、あとは置き手紙で事の経緯だけ残しといてくれると助かる」
アスナさんはそう言ってから「頼んだー」と言ってメグさんを連れ、夜の街に向かって歩き出した。
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