第257話
第257話です。
曲が終わって少し長めのMCが入る。先輩が観客席の方に指名で質問したり、逆に質問されたり。また最近あった事でちょっと場を和ませたりなど、存分に先輩のトークスキルを活かす場だ。
先輩がこうして話を回している間に、メグさんやアスナさんは先輩からギターを預かってステージの端でこっそりとチューニングをしたり、水分補給をしたりする。そして、先輩のMCが一段落つきそうになるとアスナさんが水分補給用の水を渡してから次の曲に入るのだ。
◇◆◇◆
ライブが終わり俺はライブハウスを出る。
時刻は夜の10時。
東京の街はまだ起きている。
人が耐えない雑踏を歩いていると、ふと閉店の準備を進める楽器屋の前で止まった。
店前のショーウィンドウに飾られたギター。先輩が使う黒いギターとは対称的な真っ白なものだ。
俺は思わずそれに魅入ってしまう。
このギターを担いで音を奏でる先輩の姿を想像してしまったのだ。
「何か気になるのありましたか?」
しばらくその場で立ち止まっていたら、店内から閉店の準備のために片付けをしていた店員さんが出てくる。
「あ、いや、そこのギターがどうにも気になって見てただけです」
「あぁ、このギターいいですよね。私も好きです。失礼ですけど、お兄さんは何か音楽をされているんですか?」
「いや、俺は特に。自分の知り合いの先輩にバンドを組んでやってる人がいるんです。今日もその先輩のライブ帰りで」
「へぇ!先輩の方がバンドを!私も昔はバンド組んだりするの憧れたなぁ。ミスチルみたいに着実に力をつけて一気に爆発するのも夢があっていいし、ミセスみたいに高校卒業してすぐの頃から人気が出るのも憧れちゃいますよね」
店員さんはウンウンと頷きながら「あっ」と言って俺の方を向いた。
「もしかしてお兄さんも先輩の演奏を見て楽器するのに憧れちゃった感じですか!?」
爛々と目を輝かせながらそう尋ねてくる店員さん。
なぜこんなにもこの店員さんが楽しそうなのかは分からないが俺は一応丁寧に否定はしておく。
「俺はこのギターを自分で持つと言うよりも、その先輩が持ってる姿を想像してたんです」
「なるほど。先輩がですか」
「先輩が使う真っ黒なギターとは対称的な真っ白なギター。清純な印象のある先輩にピッタリかなって思って。あとは可愛さも引き立つ気がしますし」
「あれ、もしかしてお兄さんの先輩って女性の方なんですか?」
「そうですね。スリーピースのガールズバンドをしてます」
「はへぇ。凄いなぁ」
店員さんはたいそう感心した様子で定期的に「凄いなぁ」と漏らしながら話す。
「ガールズバンドで有名なのって、SHISHAMOとかHump Backとかthe peggies、SCANDALとかですよね。もしかしたら先輩さんのバンドもこのバンドに肩を並べる時が来るかもですねぇ」
「そうですね。俺はきっと並ぶ、なんなら追い越してくれると思ってます」
「お、強気に出ましたねぇ」
「当たり前です。俺は先輩の、あのバンドの、Chatnoirの一番のファンですから」
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