第23話
第23話
二学期の終業式の日。
俺は集会とホームルーム、通知表を受け取ると屋上に向かった。教室を出る前に利根里さん達にこの後遊びに行かないかと誘われたが、今日は遠慮しておく旨を伝えると、利根里さんは「そっか、じゃあまたどこかのタイミングで遊ぼうね!」と言って友達を引き連れて遊びに行った。
俺はその姿を見届けた後に屋上に向かい始めて、今に至るというわけだ。
重い重い金属の扉。それを開けるとそこにはやはりいつも通り先輩がいる。
扉の音が聞こえたのか先輩は片手をフェンスにかけながら、こちらを見据えてくる。
「お、今日も来たのかい後輩くん!」
「今日もって言うか、先輩が俺の事を呼び出したんですけどね?」
そう言いながら俺は先輩とのやり取りの画面を見せた。
「ま、そうなんだけどさ」
「はぁ、まぁ先輩の冗談はさておき、今日は何の用ですか?」
「よくぞ聞いてくれました!」
少しだけブレザーを押し上げている双丘を自信ありげに反らせながら、先輩は笑顔を見せた。切れ長の瞳は光を反射して、深黒を綺麗に見せた。
「おっほん。では只今より私が後輩くんを読んだ理由を発表したいと思います!」
「いぇーい」
「その理由とは!」
そう大きく言い放つと予め用意していたのか、スマホからドラムの音が流れ出してきた。そして最後にシンバルの音がパンっと鳴り響く。
「後輩くんと冬休み中に東京に連れて行こう大作戦!の詳細を伝えるためなのです!」
「は?東京?」
「イエス!東京!」
先輩の口から放たれたその単語に現実味を感じられないまま、俺は首を傾げた。
「まぁ、当然後輩くんのリアクションがそうなるのもよく分かるよ」
「ですよね」
「もちろん理由の説明無しに連れていこうとは思わないから、そこは安心して」
「当たり前です」
「うん。それで、その理由とやらなんだけどね……」
◆◇◆◇
あの後色々と詳細を聞かされた。
結論から言えばこれは先輩が親から課された冬休みの宿題のようなものらしい。
そしてその宿題の内容が、東京に出たいのならまずは一度自分の力だけで上京して、その街を見てこい、との事らしい。
1日で帰宅しても、1日泊まっていっても、夜行バスや新幹線どちらを使ってもいい。代わりに必ず見てこい。ヒントなんて優しいものはなくて、代わりに先輩の心を折ろうとする親の考えが何となく伝わってきた。
甘えさせない。助力しない。本当に先輩だけの力で行かせるつもりなのだ。
正直これを聞いた時は「マジか」と驚きしか出なかったが、当の先輩は割とケロッとしていてそれにもまた驚いた。まぁ、ケロッとしていた理由は資金なら既に集め終わっているためだったのだけど。
先輩曰く大抵の事はお金があれば何とかなるらしい。それについて異論を伝えるつもりは無いが、ただ一つ思うのはそんなに資金を集めるのは簡単だったのか、という事についてだ。
確かに今先輩はバイトを初めて徐々に資金を集めている。しかしそれは将来上京する時のために使うものであって、今のこの状況下で使うものではないのだ。
だから、俺は聞いた。どうやって資金を集めたのかと。そうすると先輩はすぐに答えてくれた。
「ふふん!頑張った!」
スマホの画面も同時に見せられてまじまじと見てみると、どうやらカレンダーらしい。
「何……これ」
カレンダーには赤い文字でバイトの文字が書かれている。
ちなみに休みは1ヶ月の間に2日ほどしかない。1日の就業時間は約6時間。
そう、先輩は俺の知らない内に、時間を削る事を惜しまずにバイトに勤しんでいたのだ。
それを理解した時に俺は思わず後ずさりした。
そして思った。
この人は、いずれ、いずれ必ず……。
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