第22話
第22話
さて、どうしたものか。最近は先輩の進路や利根里さんの事を考える事が多かったが、俺も一応進路選択の真っ只中なのだ。人の事を考えるのもいいが、自分の事も少しは考えないといけない。
とは思いつつも、文理選択に関しては入学前からなんとなくだが文系と決めていたし、大学も国公立と言うよりかは私立にするだろう。
資金の方はかかるが、文系科目のみで受けれる分負担は軽くなるし、英検等を持っていれば有利にしやすくなるしな。
「という事はだ、決めるのは選択科目だけでいいということだよ」
誰もいない部屋で1人ブツブツとそう呟きながら、俺は進路選択の紙にどんどん詳細を書き込んでいく。
あとはここに親の印と名前を貰うだけなのだが、正直あまり話したくはない。
「だけど、これに関してはそうもいかないよな……はぁ」
大きくため息をつくと俺はゆっくりと立ち上がった。そして部屋の扉を開き廊下に出る。床は靴下越しにヒンヤリとした温度が伝わって来て寒く感じた。
ギシギシと音を立てて軋む階段を降りながら、俺は親のいるリビングに向かう。
「ふぅ、よしっ」
息を吐いてから心を決めると、リビングに繋がる扉を開いた。母親はソファに座りながら雑誌を熱心に読み込んでいる。内容に特に興味は無いので俺は直接母親の目の前に立った。
「母さん」
そう言うと「ん?」と言って母親は顔を上げた。
40代とは思えないほどに若々しい顔。自分がこの人の血の繋がった子供だと思うと少し気後れするが、今はそんな事どうでもいい。本題は進路の方だ。
「これ、書いて欲しいんだけど」
そう言いながら俺は進路のプリントを差し出す。それを手に取りサッと中身に目を通すと、あらかた何の話なのか察したのか母親はこくりと頷きこちらを向いた。
「文系なのも選択科目も別にこれでいいと思うけどさ」
「うん」
「大学は別にこの辺りじゃなくても良くないかい?」
「は?」
急にそう言われて俺は思わず口に出ていた。母親は人差し指をピンッと綺麗に立てながら、言葉のその理由を話し始める。
「だ・か・ら、京弥ってば高校で青春してる風な素振り全然見せないんだもん。それならさ、いっその事知り合いの少ない、それこそこんな田舎じゃなくて東京みたいな都会に出て、楽しく過ごすのも一つの選択肢かなと、お母さんは思ったわけだよ!可愛い息子には楽しく過ごして欲しいしね」
そう言いながら母親は立ち上がって俺に抱き着いてきた。俺よりも頭一つ低い身長。数年前まではこれが全く逆の立ち位置だったが、今ではすっかり抜かしてしまった。
「離れ……て」
「なーんでそんなあからさまに嫌な顔をするかなぁ?」
「いや、親に抱き着かれて嬉しい子供ってあんまいないと思うんだけど」
俺が親と話したくなかった理由。それがこれだ。
思春期とか関係無しに過剰なスキンシップをしてくるのだ。それも、家の外でも中でも関係無しにだ。お陰様で中学時代にマザコンという二つ名をつけられてしまうし、俺は何もしていないのに女子にも引かれてしまう結末。本当にいい迷惑だ。
あと一つ付け加えるとすれば、父親もこんな感じではないものの、娘を心配する親の如く男の俺の心配してくる。
「むぅー、お母さんを蔑ろに扱うとはいい度胸だ」
可愛らしく唇を尖らせながら母親はそう言った。
だが不思議な事に、自分と血の繋がりのある母親だからだろうか。全くキュンとしない。むしろこの人やべぇとしか思わない。
(歳を考えろ。歳を!4□歳のマイマザー!)
内心でそう叫びながら俺はもう一度「それで、判子と名前書いといてね」とだけ残して部屋に戻った。
部屋に入ると扉を閉めて、ついでに鍵もかけてしまう。完全に俺だけの城になった部屋の中で俺はグッと体を伸ばすとベットに飛び込んだ。
ここ最近で疲れが急激に溜まっている。
だから少しでもそれが落とせるように。
そう思って俺はゆっくりと目を閉じた。
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