第218話
第218話です。
ギターやベースの軽いチューニングをし終えてから私はお客さんの方を向いて次の曲について軽く説明をする。
「次の曲は鋭利な恋心の大人な恋愛とは違う、まっすぐな恋の歌です。大人では得ることのない、学生だからこそ、高校生のうちに体験するそんな青春模様を描きました。ぜひ最後まで楽しんでくださいねっ!」
1曲目と同様、私は後ろを向いて2人に合図を送る。そして前に向き直ってからメグさんのスティックを叩く音が聞こえてきた。
この曲はドラムでもギターでもなくアスナちゃんのベースソロからイントロが入る。かっこよく、魅せるように。そして圧倒的な練習量から得られるその技巧だらけの奏法で観客を圧倒させてから、そこに追って加わるように私とメグさんの音が重なった。
歌詞が真っ直ぐな曲だからこそ、私は響かせる音も真っ直ぐでありたいと思う。
私は歌詞を例えるなら川の水だと考える。そして音はその川の横幅、流れ方、形状だと思うのだ。だからもしこの真っ直ぐな歌詞に、音の複雑な流れや形状があったとしたら、私はどこかで歌詞の大切な意味をこぼしてしまう、そんな気がする。だからこその、この真っ直ぐな音なのだ。
真っ直ぐじゃなくていいのは曲初めの音を束ねるイントロだけでこの曲はいい。
演奏も終盤に差し掛かり、最後に曲名にもなっている歌詞を思い切り叫ぶ。そしてメグさんのドラムの締めで曲が終わった。
「Chatnoirで、走れ、でした!」
曲名を言い終わってからは次のバンドに移るために、私達はそそくさと舞台袖に引っ込む。ステージから出る時はステージに上がった時と反対方向から出るため次のバンドの人とすれ違うことはない。ただ楽屋までの廊下には私達より先に出番を終えていた人達が壁に持たれて座り込んでいたりする。
そりゃ、疲れるよね。
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