第210話
第210話です。
「忘れ物はないか?」
「完璧です」
「そうか。なら行ってよし」
「はい。昨日はありがとうございました」
俺は頭を下げるとアスナさん宅を出た。アスナさんはマンションの下まで見送りに来てくれていて、ひらひらと手を振りながら俺の姿が見えなくなるまでいてくれた。道の角を曲がる直前にもう一度だけアスナさんの方を向いて頭を下げると、俺は駅に向かう。
家に帰ってからすることといえば先輩から貰ったオフの映像を軽く編集してYouTubeにアップする事と、あとは受験勉強だろう。明日は月曜日なのであまり長くは起きていられないが、やるべき事はちゃんとやっておくのだ。
◆◇◆◇
地元に帰って来ると、偶然見知った顔を見つける。見知った、と言うよりも普通にクラスメイトなのだが。
「利根里さん」
俺はその見つけたこの名前を呼ぶと彼女の元に近づいた。
「あれ、碧染くんじゃん。外にいるなんて珍しいね」
「それは遠回しに引きこもりだねと揶揄してますかね?」
「あはは〜、さぁ、どうでしょう?」
おどけたように笑いながら利根里さんは手に持っていたバッグを持ち直す。
「どこかに行く途中?」
「ん、ちょうど図書館に行く途中だよ。さすがに受験生だからね、集中できる場所で勉強しないとやばいからさ」
「あぁ。図書館って選択肢もあるのか」
「お、もしかして碧染くんも勉強する予定だった感じかな?」
「一応ね」
「それならさっ」
利根里さんは俺の手を取りながら爛漫とした瞳で提案してくる。
「一緒に図書館行こーよ!」
「いいの?」
俺なんかが一緒に着いて行ってしまうと利根里さんの邪魔になってしまうような気がしてならないのだが。はたして本当にいいのか?なんて、卑屈に考える自分もいるが、利根里さんがその程度の事で嫌がるような人ではない。むしろウェルカム!という人なのだ。何より誘ってきたのは向こうからだし。
言い訳もそこそこに俺の中で明確に図書館に行く理由を確定させると、俺は首を縦に振る。
「迷惑でなければ、ぜひお願いします」
「おっけー!よーし、じゃあ、出発するよー!」
先導は利根里さんの元、俺はひたすらついて行くことに専念する。図書館なんて今まで利用することが無さ過ぎたため、存在こそ知れど、場所までは知らないのだ。
はたして、勉強するに適した場所なのか。というか、図書館が俺を受け入れてくれるのか、そこに不安を抱きつつ俺は歩く。
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