第209話
第209話です。
相変わらず眠そうな瞳を湛えているアスナさん。ふらりふらりとしたおぼつかない足取りで俺の隣にドスンと座ると、そのまま本格的な二度寝をしそうな勢いで寝息を立て始めた。
流石にこれでは次に起きるのがいつになるのか分からないので、トントンっと肩を叩いて起こすことにする。
「アスナさん、おはようございます」
「んぁ……うん」
一応反応は見せてくれたが、あくまでそれまで。その後になにか続く言葉がある訳でもなく、ただ静かに時が流れていく。
うむ、これはどうしたものか……。
しばし頭を悩ませた結果、俺はある作戦に出る事にした。それはChatnoirの曲を流してみるというもの。ドラムのイントロから入る曲を流せば、弾き慣れているアスナさんは無意識的にベースを弾こうとして起きるかもしれない。
俺は急いでChatnoirのYouTubeチャンネルを開いた。
ここで当然のようにチャンネルを開いているが、これの開設担当は俺に一任されていたのだ。本格的にサポートとして仕事が回ってきた感があって初めはすごく責任感というか、俺でいいのかと思ったが、これがやってみると意外と楽しい。俺自体は先輩達とはなかなか会えなくなっているので、演奏の様子や、オフの様子を撮った動画を先輩から送って貰って俺が暇な時間に編集してアップするという形だ。
そしてその動画のうちの第1号。「START Again!!!」の動画をタップする。地道に再生回数を伸ばすこの曲はつい先日5万再生を超えた。超えたその瞬間はある種の達成感を感じたものだ。
なんて感慨にふけるのも程々に俺は動画の音がよく聞こえるように少し音量を上げた。
ドラムから始まるイントロ。そしてメロディーに入る直前に基盤を一気に作るアスナさんのベースが聞こえてくるタイミングで、隣に座るアスナさんがバッと立ち上がった。
「あれ、ベースがない」
「おはようございます、アスナさん」
「ん、京弥か。おはよう」
どうやら俺の作戦通りに事は進んだようだ。
一瞬よく分かっていなかったものの、すぐに俺のスマホの画面を見て状況を察したらしい。
「それ、再生回数回ってるのか?」
「結構来てますよ。この前5万再生超えたところで、コメントも5万再生に対して1000以上も来てるんで結構評判はいいです。高評価も多いし」
「そうか」
「花火の方もかなりいいですね」
「ん、ならいい」
満更でもなさそうにホクホクとした表情を覗かせながらアスナさんは「何か飲むか?」と尋ねてきた。
「あ、じゃあコーヒーで」
「砂糖とミルクたっぷりでいいな?」
「そこはアスナさんの加減におまかせで」
「そうか。なら少し待ってろ」
颯爽とキッチンの方に向かってコーヒーを作り始めるアスナさん。俺はその姿を横目に見ながら、動画のコメントにいいねを押していくのだった。
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