第203話
第203話です。
先輩の電話があってから数日後、俺は先輩の言う俺に会いたい人という物好きに会いに行くべく大阪に向かう。
親に大阪に行くことを伝えると勉強はどうするのかと聞かれたが、大阪ですると言って出てきた。受験勉強なんて本当はしたくないし、今までだったらするとだけ言ってそのまましないのがオチだったが、さすがに受験生なので今回はするが。
電車で移動して数時間もすると車窓から見える景色は都会と化していた。
先輩達に指定されたスタジオのある場所から一番近い最寄り駅で降りると、俺はスマホのマップを頼りにそこまで歩く。
初めての道なので迷うかとも思ったが、歩いてみると案外単純で分かりやすい。未だに土地勘がほとんどないので、この際に色々と見て回ってから帰るのもありかもしれない。そう思いながら俺はスタジオの扉を開く。
「先輩、来ましたよ」
防音性に優れた重い扉を開けて中に入るとそこにはバンドメンバーの3人と、おそらく俺に会いたいと言っているその当人を見つけた。
「おぉ、よく来てくれたね後輩くん!」
「京弥、そこの椅子使っていいぞ」
アスナさんは壁に立て掛けられているパイプ椅子を指さしてそう言った。
「あ、どうも」
椅子を展開して置くと、腰掛ける。
「それで、俺は一体どうするのがいいんですか?」
「そうそう。後輩くんにはこの子にあって欲しかったの」
先輩がそう言って紹介する。
名前は佐野原紫音というらしい。みんなはシオンちゃんだったり、佐野原と呼んでいるが、まぁ俺は無難に佐野原さんだろう。
「そ、そのっ!き、今日は遠い所をわざわざ、あ、ありがとうございましゅっ!!」
語尾を微妙に噛んだようにも聞こえたがあまり触れないでおこう。
俺は首を横に振って「別になんでもない事ですよ」とだけ伝えてから、俺が聞きたかったことを尋ねた。
「その、俺に会いたいってのは別に良かったんですけど、何か会いたい理由とかってあったんですか?特に俺は楽器を弾くわけでも、歌を歌うわけでもないし。何よりメンバーじゃないし」
そう言ったところで先輩から言葉が挟まれる。
「こら、後輩くん?きみはれっきとしたChatnoirのメンバーなんだから、初対面の人にメンバーじゃないなんて言っちゃダメじゃない」
「いや、でもメンバーって言えるほどのことは何も……」
「京弥。お前はChatnoirのメンバーだ。以上」
アスナさんにもそう言われてしまう始末。
え、俺は本当にメンバーという事になってしまっているのだろうか?
どうしようもなく大きな疑問を抱きながら、俺は前に座る佐野原さんに一度向かい直る。
「なんかまぁ、一応メンバーらしいんですけど……会いたい理由って何ですか?」
俺は再度尋ねる。
佐野原さんは頬を染めてから上目遣い気味に俺の方を見てこう言った。
「その……一目惚れ、です」
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