第201話
第201話です。
コップの中に入ったジュースと氷をカラカラとかき混ぜながら、私は向かいに座るシオンちゃんに語りかける。
「そのもう1人のメンバーはねここにはいないの」
「みたい……ですね?」
一応なのか、辺りをくるりと見渡してから誰もいないことだけ把握するとシオンちゃんはこくんと頷く。
素直でとってもいい子。
「それで当然ここにいない理由も気になると思うけど、実はそのメンバーの子はね、担当する楽器があるという訳でもないんだよ」
「ボーカルってことですか?」
当然そういう考えになるであろうシオンちゃんの推測に私は首を横に振りながら、「ふふっ」と笑う。
「そのメンバーはね、楽器も弾かないし歌も歌わない子なんだよ」
「……それは本当にメンバーですか?」
「紛れもなくメンバーだよ。私達にとってはとっても大切なね。あ、でもその子自身はメンバーじゃないって言ってたけど、そこはリーダーの私が許しませんという方針です」
「あれ、もう1人のメンバーの方がまともな考え方を持ってる……」
少し納得いかなそうな表情も見られるが、とにかくもう1人の存在は把握してくれたようだ。
「それで、そのもう1人のメンバーの方はどういった役割で?」
尋ねられて私達3人は目を見合わせる。
彼の存在は私達メンバーにとってきっと少しずつ意味合いが違うのだ。私にとっては彼がこのバンド結成の引き金となった存在だし、アスナちゃんにとっては唯一の同年代の友人とでも言うべき存在。メグさんは大切なコミュニケーションを取るための練習相手。どれを見ても大切な存在であり、重要な役割を担っているわけだ。
「うーん……一概にこれといった説明はしてあげれないけど、なくてはならない存在って事に違いはないかな」
「そうですか。にしても、少し興味があります。そのもう1人のメンバーに」
「お、本当に?」
「はい。見たことがないので、ぜひ見てみたいですね」
シオンちゃんがそう言ったところでアスナちゃんが話に入ってきた。
「佐野原はそいつと会ったことあるぞ」
「へ?そうだったっけ」
「文化祭にそいつも来てたんだからな。というか佐野原の茶屋にもそいつ行ってたぞ」
「文化祭って……あれ結構お客さん来たよ?そのどれか1人となると流石に」
「佐野原がイケメンのお客さんに美味しいって言って貰えて死ぬほど喜んでた時あったろ?そのイケメンがもう1人のメンバーだ」
そういえば聞いた話によるとアスナちゃんと一緒に茶屋に行ったと言ってたね。私はその店に訪れたわけではなかったから、美味しかったという話を聞いて羨ましがった記憶がある。
「え……え?それって、西条さんと一緒に歩いてた男の人ってこと?」
「まぁ、そういうことになる」
「あの人がメンバーなのぉ!?」
心底驚いたように目を丸く見開き、大きな声でリアクションを取るシオンちゃん。見ていて愉快だ。
「まぁ、これで見てみたいって願いも叶ったな。だから特にもう見る必要はな……」
「会ってみたいです!」
「え?」
「会いたいですっ!」
アスナちゃんの言葉を遮って放った言葉。その言葉にシンプルに固まる私達3人。
シオンちゃんの瞳の奥がハートの形をしていて、私達はとても彼女の熱を止めれる気がしません。
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