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第1話

第1話です。

 真新しい上履きをパタパタと鳴らしながら階段を昇っていた。薄暗い空間。その中でも最上階には僅かに外からの光が見える。

 昇り切って眼前に現れたのは、鍵の壊れた重い重い金属製の扉。ドアノブに手をかけると、ギシッというサビの擦れる音が響く。少しピクリとその音に驚きながらも、勢いで何とか扉を開けた。

 広がっているのはフェンスに囲まれ、古ぼけた飲料メーカーの広告がプリントされたベンチがあるだけの屋上。それ以外は本当に何も無い。

 風がフッと吹けば、微かに潮の香りが漂い、あぁここは海の近くの学校なのだと再認識させられる。


「〜〜♪」


 少し歩いて色んな景色を楽しんでいると、微かに人の声が聞こえた。初めは校内の生徒の声かと思ったが、どうやらそうではないらしい。確実にこの空間内にいる。

 思い立ったが吉日とばかりに俺は辺りをぐるっと見回してみた。だが、それらしき影は何一つ見当たらない。自分の思い過ごしなのかと思い、ベンチの方に向かうと突如上から話しかけられた。

 屋上であるこの空間より上からだ。


「あれ?こんなところに人が来るなんて珍しいね。お客さんかな?」


 俺は声のした方向に振り向いた。入口の上。貯水タンクがある場所だ。足をプラプラさせながら、そこにいた人は耳に付けていたイヤホンを外した。


「いや、お客さんでもなんでもないですけど」

「あら?そうなの?」


 こくりと頷き返すと「じゃあ私の勘違いかぁ〜」と言ってその人はググッと伸びをした。

 伸びをした時に、控え目とも豊満ともどちらとも言えない、程よいサイズの双丘が目立つ。


「んー、お客さんじゃないなら暇だなぁ」


 唇に指を当てながら少し残念そうに言うその姿は、少し艶らしい。


「あの、邪魔なら帰りますけど……」


 そう聞いてみると「いやいや全然そんな事ないよ」と返される。


(いや、正確には俺が帰りたいだけなんだけど。人がいるなんて思ってなかったし)


 そう思いながらも、その人は相変わらず足をプラプラとさせたまま降りることもしないので、俺は思うように動けなくなった。


「ん?」


 しばらくすると、その人は俺の方を見て何かに気づいたようだ。


「緑色の校章、君一年生なんだねぇ」

「はぁ、そうですけど」

「つまりは私の後輩ってことだね!」

「直属ではないですけどね」


 そう言う彼女の胸元にキラリと光るものは青色の校章。この高校の二年生の学年色だ。


「なるほど、こんな感じで下の子と関わるのこともあるのか」


 腕を組みながら「うんうん」と何か納得したように、先輩は大きく頷く。


(そろそろ、めんどくさいな……)


「あの、もう戻ってもいいですか?」

「あれ、もう帰るの?何か用があったからここに来たんじゃなかった?」

「初めはそうでしたけど、人がいるなんて思ってませんでしたし、また別の機会に1人で来ますよ」

「そっかぁ」


 少ししょんぼりとした仕草を見せながら先輩は「なら仕方がない、戻りたまえ!」と俺に帰宅を許してくれた。


「じゃあ、失礼します」

「うん、またね〜」


 最後の先輩の声には特になんの反応もせずに、俺は重い重い金属製の扉を開いて校舎に戻った。

 またね、か。関わりを持つつもりもないし、名前も知らない相手だし、何よりも他学年だ。またね、の機会はきっともう無いだろう。


 と、そう思っていた時期が俺にもあったんです。



◆◇◆◇



「え?」


 3時間目の数学の時間。授業が何となく嫌になってお腹が痛いと仮病を使い屋上に向ったわけだが、なぜかすでに聞き覚えのある鼻歌が聞こえてきた。

 上を見れば見覚えのあるスカートの端がヒラヒラとしていた。


「いないと思ってたのに……」


 そう言った声が聞こえたのか、初めて出会った時の様に先輩はムクリと起き上がって、俺の事を見下ろした。


「あら、お客さん?じゃなくて、君はこの前の後輩くんだねぇ」


 ニッと上がった両端の口角は、先輩の顔に綺麗な笑顔を作り上げた。


また(・・)、会ったね♪」

「はは……」


 乾いた声で笑うとフッと少し強く風が吹き込む。ツンと流れる潮の香り。そしてヒラリと舞うスカート。もう目をそらす事もめんどくさい。

 先輩はヒラリと舞ったスカートを両手で抑えると、少しだけ頬を染めながらこちらを向いた。


「どうやら私の初めての後輩くんは、少しエッチみたいだねぇ」

「もう、なんでもいいや……」


 これが俺と先輩との二度目の邂逅だった。


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