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第193話

第193話です。

 先輩とプラプラと一緒に歩きながら、時間を過ごす。コートのポケットの中には先程貰ったチョコが入っていた。溶けないように細心の注意だけ払いつつ、俺は先輩との会話を楽しむ。


「私は大学受験しないからねー。日中はずっとギターの練習とバイトですよ」

「バイト増やしたんですよね?」

「そうそう。シフトをね、組み直してもらってそれで稼ぐお金の量も増やしました」


 こういうところでちゃんと先輩は努力できているからすごい。かく言う俺はなんとなく大学の目星を付け始めたものの、それに向かった勉強をする訳でもなく、ただ無為な時間を過ごしているだけだ。先輩がいたらもっと真面目にしていただろうが、今は学校にはいないのでそんなことは出来ない。


「アスナちゃんとねメグさんとも連絡取ってるけど、メグさんがいいお部屋見つけてきてくれてさ〜。シェアハウスなんだけどね」

「シェアハウス?男は?」

「いないよ〜。女の子オンリーのシェアハウス」

「なるほど。それなら安心です。……というか、メグさんコミュニケーション取れますかねそれ」

「うーん、私が心配してるのもそこなんだよなぁ。一応聞いてみたんだけど、人見知りを強引にでも克服するためですって言ってたから、考えが無いわけじゃないだろうけど。それでも最初は大変だろうなぁ」


 先輩の話す通り大変そうなのは余裕で想像がつく。しどろもどろになりながら(ども)ってしまうその姿が。


「まぁ、今はとにかく応援してあげるしかないよね」

「ですね」

「それにシェアハウスって悪いことだけじゃなくてさ、コミュニケーションの練習以外にも、他の住人との助け合いがあるから本当の1人暮らしに比べたら、実は案外ハードルは低いらしいよ」

「へぇ」

「1人じゃないから防犯の面でも強いし、ご飯も当番制にすればバイトとかバンドの練習に時間が割けるし。結構いい事も多い」


 そう言って楽しそうに話す先輩。

 この人は確実に未来しか見ていない。俺のように、もしまだ先輩が学校にいたらなんてifの世界は一切見ていないのだ。しっかりと現実だけを見て、それに向かって進んでいる。


「先輩って強いですよね」


 俺がそう言うとたいそう驚いたように先輩はこちらを見た。


「急にどうしたの?」

「いや、素直にそう思っただけです」

「そうかな?」


 先輩は首を傾げながら、ポツりポツりと話し始めた。


「多分、私が強く見えるのは後輩くんのおかげだと思うよ」

「俺ですか」

「そう。……お恥ずかしい話、後輩くんがいなけりゃそもそも音楽で食べていくなんて言わなかっただろうし、何よりお母さん達の説得もまともに出来なかったと思う。私が出来たのは、私の後ろに後輩くんがいてくれてるから安心して突っ込んで行けただけで、私自身は強くともなんともないただの女の子だよ」

「ただの女の子……」

「そう、ただの女の子。……あれ、もしかしてただの女の子には失望しちゃった?」


 少しだけ心配そうな表情をしながら俺の顔を覗き込んでくる。ただ、そんな先輩の表情とは反対に俺の心は浮き足立って今にも踊り出しそうだった。


「いや、失望なんてしません。むしろ今までよりも親近感が湧いてます」

「ほっ……ならよかった」


 俺は俺が思っているよりも彼女の中に強く存在しているのだ。それが分かっただけでも今日は御の字だ。

 先輩は安心しきったゆるゆるとした表情はそのままに、ふと俺の方を見て話し始める。


「あ、そうだ。後輩くん。私達はできるだけ短い時間で成果を出してすぐに東京に向かうから。だから待っててね」


 その言葉でやっと先輩がなぜ俺の進学先を東京にすればいいと提案したのか理解した。

 先輩は初めから俺の事もバンドの事も考えた計画を立てていたのだ。





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