第191話
第191話です。
何かをしていたら当然時は進むし、反対に何もしなくても時は勝手に前に進む。それも時間だけが勝手に進むのではなく、俺という人間自身も巻き込んで強制的にだ。
時が進むのは本当に早い。毎日のように先輩と話して、練習に付き合って。学校を終えて帰って寝て起きて。そしてまた学校へ行って。期末を乗り越えたらもう冬休みだ。
冬休みに入ると3年生はどうなるのか。
結論。
誰も来なくなる。
それは先輩も例外ではない。これは一個人の勝手で変えれるものではなく、3年生という学年全体が来れなくなるのだ。
だから俺は今、肌を刺す冬の冷たい風に吹かれながら、1人寂しく屋上のベンチに座っている。
◆◇◆◇
白い息は吐いてから少しすると薄れて消えていく。
また、灰色になりそう。
せっかく色付いていたのに、あなたがいなくなるだけですぐに濁って見にくくなってしまうんだ。
胸の奥にずっしりとした何か得体の知れないものがのしかかっている様な、そんな気がして気持ち悪い。
出会った時から分かっていたはずなのだ。たとえ関わりを持ったとしても、学年が違うから俺は確実に置いていかれると。
たった1年の差だけでだ。いや、生まれた誕生月を考慮すれば正確には1年もない。なのにたったそれだけの差で、俺は灰色の世界に置いていかれる。
「はぁ……つまんな」
ボソッと呟くと俺はのそりと立ち上がって、ベンチ横に置いていたリュックを乱暴に背負った。扉を開けて校舎の中に戻ると、そのままの足で校門に向かう。
先輩は今頃何をしているのだろうか。受験はしないからやはりギターの練習だろうか。それともバイトかもしれない。
新年を迎えてからもう既に1ヶ月以上が経ち、2月に入っている。もうすぐ3年生はこの学校から卒業する。先輩が本当にこの学校から去ってしまうのだ。それを考えると、またしんどくなる。
ため息ばっかり。何回も息を深く吐いては、浅く吸うだけ。1対1の比率じゃないから当然息苦しくなってくる。
そうだ……先輩に会いに行こう。
俺はそう思うが早いか、すぐに先輩のバイト先に足を向けた。電車に乗り、バイトの最寄り駅に着くと少し小走りでその店に向かう。しかし、先輩の姿は見えない。
今日はシフトじゃないのか。じゃあ家に……って、先輩の家は知らないし。
自分でもストーカーのような事をしている自分に嫌気を差しながら、また電車に乗って地元に戻る。
適当にふらつきながら先輩の影を探した。
どこかでふらっと現れてくれるだけでいい。挨拶だけでいい。電話越しじゃなくて、文字越しじゃなくて、先輩の生の声が聞きたい。
そう思いながら俺は歩く。
「見ぃーーーーーつけたぁーーー!!!」
後ろから聞こえてきた元気な声。
俺は思わずすぐに振り返ってしまう。
視界に移るのは白いコートと黒いマフラーに白い頬を赤く染めた先輩の姿。
「見ぃーーーーーつけたぁーーー!!!」
先輩の言葉を復唱するように俺もそう叫ぶ。
俺のその声を聞いた先輩はニヘッと笑うと「同じだ」と言った。
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