第180話
第180話です。
コーヒーの缶が軽くなる頃にはもう随分と話し込んだ気がした。先輩以外の2人が他県から来てくれていたことや、銀髪の子が私達と同じ歳だということ。クールなあの女の人は実はクールなんじゃなくて、ものすごいコミュ障だということ。
当然だが、私にとっては知らないことばかりだ。
一番驚いたのは先輩と同い歳のあの人がコミュ障だということだろう。初見だとそうそう気が付かない。
「そろそろ、戻ろうか」
碧染くんが不意にそう口にする。
確かにもう十分話した。それに、文化祭はこれから後夜祭に入る。まだ終わりではないのだ。
私は腰掛けていたベンチからゆっくりと立ち上がると、碧染くんの方を向く。
「後夜祭、楽しまなきゃね」
「そうだね」
先輩達のライブが終わってから、私は何とかして碧染くんと後夜祭を楽しむ約束を取り付けていたのだ。だから、この文化祭。私にとっての戦いはこれから始まる。
先輩や、銀髪のあの子じゃない。私だ。私のターンが始まるのだ。
手は一切抜かない。本気で攻める。落とせるまで攻める。攻めて攻めて、攻めた先に……欲しいものがあればな、なんて思ったりするのだ。
◆◇◆◇
教室に一度2人で戻る。
碧染くんは速攻自分の席に戻っていけたが、私はそうもいかなかった。クラスの男子達に囲まれて「後夜祭一緒に回らないか?」と誘いを受けたのだ。
当日になるまでそんな素振り見せてこなかったくせに、と自分の事は棚に上げながら、私は先約があるからと言って碧染くんの隣の自席に戻った。
「碧染くん、寝るにはまだ早いよ?」
私が戻った頃には既に机に突っ伏して肩を上下させる碧染くんの姿がある。
私と彼の席に戻る時に発生した時間差など、数分あるかないか程度にも関わらず、しっかりと睡眠モードに入ってる彼には驚きを感じざるを得なかった。
「仮眠は大切だからさ……」
ちらりと私の方を見ながら碧染くんはそう話す。
確かに睡眠は大切だけど、でも今なの?
私は腕を組みながらうむむ、と悩む。
そういえばこの後夜祭は全員参加というわけではない。あくまで自由参加だ。どうしても門限に引っかかる生徒や、そもそも興味のない生徒は帰っていたりする。だから私達が今教室で過ごしているこの時間も、実は後夜祭に残る人と残らない人を完全に分けるための時間なのだ。あと数十分もして構内に人が残っていれば、その人は十中八九後夜祭に行く人だということ。
事前にプリンとか何かで参加の意志を示すなど、色々とやりようはあった気もするのだが、まぁ、これなら当日の気分で決められるし悪くはないだろう。
後夜祭まであと1時間。
長すぎる残り時間を意識しながら、私も隣の彼を模して机に突っ伏した。
寝れるかとも思ったが、意外と背中は痛い。
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