第17話
第17話です。
「という事でやってきました!都会!」
ピシッとポーズをプラットフォームで決めながら、利根里さんはそう言った。
「いぇーい」
「そこ!もっと盛り上がる!」
「いぇーい!」
周りの目が少し恥ずかしいが、なぜか温かく見守られているのでこのテンションをやめることもはばかられてしまう。
「よし、じゃあ早速行こうか!」
「そうだね。それでどこに行きたいとかあるの?」
「えっとね、ひとまず服とか見たいかな?」
利根里さんはそう言うと俺の手を引いた。
「さ、碧染くん!ブティックに行くよ!」
「おぉっと!?」
少し躓きながらも体制を整えて改札を抜けていく。
駅を出たら見えるのは高いビル。高校のある地域とは正反対の景色だ。
車の排気ガス臭い空気に、たくさんの人。もうかなり暗くなったというのに、目が痛いくらいに煌々と光り続ける街の灯り。
何もかもが正反対だ。
「ん〜、これも可愛いし、これもいい!」
目の前では色々な服を手に取って鏡の前で合わせてみては、目をキラキラと輝かせている利根里さんがいる。
やはり女の子というものは買い物が好きなようだ。もうかれこれこの場に30分ほど留まっている。
「ねぇねぇ!碧染くんはどれが好き?」
「俺?俺はそうだな。このグレーのとかいいと思う。ダボッとしてて可愛い感じになりそうだし」
「なるほど〜。碧染くんは小さい系女子がお好みということでいいかな!」
「いや、別にそういう訳ではないけど」
決して嫌いでもないが。なんなら有りではあるが。何かギュッてしてあげたくなる感じが堪らないし。
と、内心でつらつらと気持ち悪い事を考えつつ、俺は少し離れたところにあるメンズコーナーに向かった。
そこにはザ・イケてる系といった感じの服が多く並んでいる。
はてさて、ここから俺に合う服を見繕えるとは到底思えない。
腕を組んで「うーむ」と悩みながら立っていると、後ろから紙袋がガサガサとなる音が聞こえてきた。振り返ると既に服を買い終えたらしき利根里さんが立っていた。
「お困りですか〜?」
「うん、ちょっとね。何が自分に合うのか分からなくて」
「なるほど。ならば先程私の服を選んでくれたお礼に、私が選んで差し上げましょうぞ!」
胸を張りながら利根里さんはそう言った。「ドンと任せておきなさい!」とでも言うようなその風貌は頼もしさえ感じる。
「じゃあ、お願いするね」
「了解!さぁ、選ぶよ〜」
後ろで利根里さんの姿を見ながら、頭の中にはふとある女性の顔が浮かんでいた。黒髪が綺麗なあの人。つまるところ俺との秘密の共有者である先輩だ。他の女の子と遊びに来ているのに、別の人の事を考えるのは失礼極まりない気がするが、別にやましい事を考えているわけではない。
考えているのは先輩のバイトの件だ。こちらが一方的に提案して先輩を送り出してしまったが、あれは些か無責任だった。それにあの田舎度合いだと、まともにバイト出来そうなところを探す事自体がまず難しい。
だから、今日利根里さんに誘われてここに来れたのは幸運だった。ここなら多くのバイトが見つかりそうだし。何より、多少家から離れた場所であっても交通費を出してくれる場所を選べば、交通費に困る事も無い。
無責任の償い程度に三つ候補くらいは用意しておこう。
そう思いながら俺はもう一度利根里さんの方を見る。相変わらず選び続けていて、その表情は真剣そのものだ。
◆◇◆◇
「いやー、いい買い物だったよ」
「そりゃよかった」
「うん!こんなに楽しいのも久しぶりだなぁ」
「そうなの?」
以外に思ってそう聞いた。
「うん、実はね」
少し苦笑いを浮かべながら利根里さんはこちらを向く。「短いけど聞いてくれる?」と利根里さんは俺にそう尋ねてきたので俺は首を縦に振った。
「私ね、中学の時は今ほど目立ってなかったんだよ。というか目立つことがなかった。今の私の周りにいる子なんて昔の私からしたら雲の上みたいな存在だったし、関わりを持てるとも思ってなかったんだ」
「でね、いわゆる高校デビューみたいな感じで髪を切って染めて、眼鏡もコンタクトに変えたらさ、あら不思議。なぜか私が雲の上にいるじゃないですか!ていう事があったの。それが入学してまもない頃」
「色んな人が私と関わりを持とうとしてくれるから私それが嬉しくてね、色んな子とお出かけにも行ったしお泊まりだって初めてした」
語られてくるのは理想的な高校生活の風景。
いわゆる女子高生の青春だ。
「好きな人の話とか、ドラマとか、メイクとか。女の子っぽい話も沢山した。だけどね、私さ仲がいい関係を保とうとしちゃうから、合わせようとしちゃうんだよね。無意識的に」
「合わせようとするから段々何が楽しくて、何が一番私にとって良かったのか分からなくなってきて。だから最近は進路とかテスト勉強とか言い訳を作って遊ぶのも控えてたんだ」
「なるほど」
「だけどさ」
そこで利根里さんは少し息を吸うとこちらを向いた。
「この前のカフェも今日のお出かけも、碧染くんとなら素の自分を出して楽しめてたよ」
瞳を細めながら利根里さんは笑った。
思わずその表情に目を奪われてしまう。
「碧染くんはどう?」
そう聞かれて俺は一瞬何も言えなくなった。
利根里さんの考えてきた事を聞かされた後だ。適当な上辺だけの事は言えない。
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