第173話
第173話です。
中庭のステージ上に先程顔見知った3人が立っていた。手には楽器を携えて音色を奏でている。
「バンド?」
まだ一曲目が始まったばかりらしく、校舎の二階から見ていた私は急いで階段を駆け下りると観客席の中に向かった。ちらりと見た際に碧染くんらしき人物が見えたのだ。
私は碧染くんらしき人が立っていた場所の辺りを目指して、人の波を掻き分ける。
鼓膜を揺らす音楽は非常に軽快で明るいもの。最近流行りのバンドのコピーらしい。みんなその曲を知っているためか、想像以上の盛り上がりを見せ、中々思うように進まなくて少し苦戦する。
碧染くんは確か左前の方にいたよね。なら左側から一気に攻めた方が早いか。
私は一度後ろに下がってから、左側にずれてもう一度人の波に潜った。人口密度自体はどこも変わらないので、人が多いことによる息苦しさは変わらない。ただ、最短距離を進んでいるという事実だけが私を前へと進めた。
曲と終盤に差し掛かろうというところでやっと一番前に到達する。そして周りの人をくるりと見渡すと、私の探していた碧染くんが赤坂先輩の方をジッと見つめていた。
「碧染くんっ」
私は何とか隣にまで行きそう声を掛けた。急に隣から自分の名前を呼ばれたことに驚いたのか、一瞬身体を跳ねさせてから「あ、なんだ利根里さんか」と言ってホッと息をつく。
なんだとはなんだ。私は君にとってその言葉で済まされる存在なのかい!
と、私の中で黒いツノを生やした悪魔の私がプンスカと怒る。
「ねぇ、先輩って」
「ん、あぁ。本当は後で話すつもりだったやつなんだけどね」
そう言って一度言葉を切ってから碧染くんはまた続きを話す。
「先輩達3人はバンドを組んでて、俺はそのサポートをしてるって関係かな」
「サポート?」
「うん。まぁと言っても先輩が東京に行った時に護衛として着いて行ったり、大阪でメグさん達と会う時にも着いて行ったりしただけなんだけどね」
ん?東京と大阪?
いや、大阪はまだ分かる。時間こそかかるが十分行って帰ってこられるだけの距離だ。だが、東京は訳が違う気がする。
1日で行って帰って来れるっけ……。
そんな疑問が胸にしこりを残したまま、バンドの曲は2曲目に入ったのだった。
ぜひブックマークと下の☆からポイントの方をお願いしますね!次回は8日です。