第16話
第16話です。
先輩は時折、恐ろしいくらいの行動力を見せることがある。特に最近は将来の夢の事もあってか、余計にそれが顕著だ。
張り切りすぎて体調を崩さないといいのだが。まぁ、その時は慰めてあげよう。
少し上から目線でそんな事を考えながら、俺は校舎に戻った。部活には入っていないし、俺が先輩にバイトを勧めておきながら俺は何もしていないので、さっさと帰ることにする。
少しひんやりとした風を感じながら、線路沿いの歩道を歩く。最寄り駅まではこの道を通るのが一番早い。
「ふあぁ……眠い」
一つ大きな欠伸をすると少し目を擦った。
瞳は涙の膜に覆われて、視界が少しボヤける。
「んー、見にくいな」
「なーにがっ?」
「っ!?」
急に肩を後ろから叩かれて俺は驚く。ゆっくり後ろを確認すると、そこにいたのは利根里さんだった。
「あ、あぁ……何だ利根里さんか」
「何かその反応は嫌だけど、まぁいいや。それで何が見にくいの?」
あくまで俺の反応は気にしないスタイルらしく、またそう聞いてきた。いや、確かにそれで別にいいのだが、こちとら急に驚かされて心臓が軽く止まりそうだったのだ。もう少しくらい呼吸を整えさせてくれてもいいだろう?
「あー、いや、視界がボヤけて前が見にくいってだけの話だよ」
「そう?ならいいんだけど」
そう言いながら利根里さんは俺の横に立った。
鼻歌を歌いながら上機嫌に歩いている。
「何か機嫌いいね」
「そう?」
「うん、鼻歌も歌ってるし」
「鼻歌くらいいつでも歌うでしょ?」
「そうかな?」
「そうだよ」
なんてことのない普通の会話をしながら歩けば、すぐ目の前には駅があった。
「利根里さんは電車だっけ?」
「そうだよ〜」
「どっち方面?」
そう聞くと俺が向かう方向と同じ方面を指さした。
「こっち方面だね」
「へぇ、俺と同じだ」
「そうだったの!?知らなかったよ」
「俺も知らなかった」
毎朝電車を使っているのなら、一度くらいは姿を見た事くらいはありそうなものだが、全く無いということも世の中にはあるのだろう。
「まぁ、これからは会うこともあるかもだし、改めてよろしくね!」
「うん、よろしく」
そう言葉を交わすと、改札を抜けた。
エスカレーターを使って灰色のプラットフォームに上がると、後ろには青い海が広がる。
「ここ、田舎にしては景色綺麗だよね」
「うん」
「何か、海の綺麗景色が見れる穴場が沢山ある印象があるね」
確かにその通りかもしれない。この前のカフェだってすごく綺麗な景色が見えた。ここも引けを取らないくらいに綺麗だし、今風に言えば映えるスポットが沢山あるのかもしれない。
「ま、でもお買い物するのにはちょっと不便かもだけど」
「それは仕方がない」
2人してケラケラと笑うと「ふぅ」と息を吐いた。
プラットフォームに電車の到着を知らせるジングルが流れ始める。
「来たみたいだね」
「だね」
目の前にゆっくりと止まった電車の扉が開くのを確認すると、俺達は電車に乗り込んだ。
人は少ない。ほとんど貸切状態の車内で俺達はゆったりとシートに座った。
「ねぇ、このままさちょっと街の方まで遊びに行かない?」
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